近郊の札幌市にお住まいの方からDTC-57ESの修理依頼がありました。久しぶりに使用したところノイズが酷いという状態であったので、メーカーサービスに問い合わせしたものの修理を断られたということです。
この機種でノイズが発生する場合の原因は、「RFアンプのケミコン不良」または「ローディング不良」がほとんどですが、今回はどうでしょうか?
札幌からは車で1時間程度ですので機器を持ち込んでいただきました。大変恐縮です。
背面を見ると、メーカーサービスの修理済みを表示する丸いシールが貼られています。これまで最低でも3回は修理を受けているようです。
テープ走行は問題ないとのことでしたが、動作確認では、ノイズ交じりの再生が始まった後、3秒程度でテープ走行が停止してしまいました。また、ローディングの際もモーターの苦しそうな動作音が聞こえます。また、入力をアナログに切り替えて録音スタンバイ状態にするとRchから「サー」というノイズが聞こえてきます。デジタル入力では問題ありませんでしたのでアナログ回路の故障でしょうか、
早速サイドウッドとカバーを取り外します。
電源部のケミコンは茶色のタイプ、サブボードにはリールモーターのトルク調整用の可変抵抗が追加されていますので、改良が行われた後期の型です。
メカを固定している3本のビスを緩めメカを取り出します。DATデッキはカセットデッキと比べるとメカの取り出しが簡単な構造になっています。
標準のスポンジ製ヘッドクリーナーが付いています。ヘッドを浸蝕していなければ良いのですがどうでしょうか?
クリーナーは触ると簡単にボロボロになりました。代替品や改良品はありませんので撤去したままになりますが、使用に問題となることはありません。
ヘッドがスポンジで浸蝕されていないか点検します。セーフです。
ピンチローラーとローディングベルトの状態を点検します。弾力性がありますので問題はありません。
メカ底面のMDボード、リールメカを取り外します。
リールメカ固定用のネジ穴4か所のうち1か所が割れていてネジがユルユルです。以前修理した際に締めすぎたのでしょうか?このままだとメカがよじれて動作不良となるおそれがありますので、針金と接着剤で補修します。
可動式テープガイドの作動状態を点検しましたが、途中で引っかかって止まってしまいます。この状態ではテープをヘッドに正確に当てることができません。これがノイズ発生の原因と思われます。
ここの樹脂製ガイドレールが経年劣化による変形で間隔が狭まっていますので、ヤスリで削って広げます。
これでテープガイドが正規の位置まで動くようになりました。
ここの白黒のギヤは、テープローディングを司っていますが、グリスが硬化し動きが悪くなっていました。そのためモーターに負荷が掛かり、苦しい動作音が聞こえていたようです。回転部分を清掃しシリコングリスを塗布します。
このタイプのメカは、徹底的に摩擦を減らす必要がありますので、回転部の必要なところにはグリスアップします。ブレーキパッドの点検も併せて行います。
続いてDTC-57ESの代表的なウイークポイントであるRFアンプの点検を行いますが、基板とケースの半田付け箇所に手を入れた跡が見られます。
やはり修理済みでした。問題はありません。
メカを元通りに組み立てて試運転を行いましたが、テープは正常に走行するようになったものの、やはりノイズが酷い状態です。テープパスの狂いが原因かと思い調整を行おうとしたところ、いつもと様子が違うことに気づきました。
メカを覗いてみると、右側のテープガイドの先端がストッパーに当たって正規の位置の手前で止まっています。
そこで、テープを挿入しないで、テストモードで確認すると、テープガイドはストッパーの正常な位置に嵌りました。なぜでしょうか?
小一時間ほど悩みましたが、わかりました。問題のテープガイドを外してみると、下側の白いプラスチックと銀色のパーツがキチンと組み合っていません。テープを挿入したときはテープに引っ張られて先端が持ち上がり不必要な箇所に当たっていたようです。おそらく前述のガイドレールの不具合によって必要以上に応力が加わって変形してしまったのでしょう。これまで同じメカは百台以上見てきましたが初めてのケースです。ここは手持ちのパーツと交換です。
再度試運転です。今回はOKです。テープガイドを交換したのでテープパス調整を行います。また、ヘッドフォンVOLにガリがありましたので接点復活剤で修正を行いました。
再生時のノイズは無くなりました。ところがこの段階で新たな不具合が見つかりました。OPTICAL-OUTにケーブルを差し込むことができません。
どうやら以前に差し込んであったケーブルの先端が折れて中に刺さったままとなっているようです。
先の細いドライバーで取り出しました。
次はアナログ入力回路の修理に取り掛かろうと思い、アナログ入力の状態を再度確認したところ、なぜか不具合が再現しません。最初に点検したときは間違いなくアナログ入力ではRchから「サー」というノイズが聞こえてきたのですが、まったく問題ない状態です。
どこか接触が悪いのかと色々と基板周辺を触ってみましたが、やはり再発しません。デッキとは関係ない外部機器の接続などの理由によるものだったのでしょうか?
録音再生良好になりましたが、念のため、あと1・2日程度試運転を行いアナログ入力に不具合が無いか確認し、その後オーナー様に引き渡す予定です。
今回は可動式テープガイドの変形という意外な故障が原因のひとつでしたが、無事修理を終えることができました。SONY製DATデッキの修理は当店にお任せください。