先日当店からAKAIのカセットデッキGX-93を購入されたお客様から、「機器が到着したが動作しない」とご連絡をいただきました。左右リールが回転しないとのことです。動作確認は修理後と発送前に行っていますので、輸送中の振動により何かトラブルでも起きたのでしょうか?
早速機器を送っていただきました。
再生ボタンを押すと、勢いよくモーターが回る音がしますが、リールはまったく回転しません。
真ん中に見えるのがリールモーターの軸で、その下がアイドラーです。この部分にスリップが起きて動力が伝わっていません。アイドラーゴムは新品に交換していますが、なぜスリップしているのでしょう?
まずはアイドラーをユニットごと交換してみましたが、変わりはありません。
ということは、このモーターの軸の部分でしょうか。ブラシとアルコールでクリーニングしましたが、残念ながら効果はありません。取り外して点検することにしました。
この部分はアイドラーゴムとの摩擦力を高めるためにギザギザ加工がされています。ただ、見た目では分りませんが、触ってみるとスベスベします。
スペアのモーターと比較します。拡大鏡で確認してみると、やはり、アイドラーゴムが当たっていたところは表面が摩耗して滑らかになっています。それでスリップが起きたようです。
軸の部分は圧入になっていますので、モーターごと交換したところ、あっさり回復しました。また、念のため、交換前に、軸の部分はワイヤーブラシで表面を荒らしました。
今回の不具合の原因を自分なりに分析しましたが、本来、一定程度の摩擦があるべきリールモーターの軸の部分が摩耗により摩擦力が低減しスリップが起きたものと思われます。では、なぜ、発送前に症状が発生しなかったかというと、おそらく気温や湿度とアイドラーゴムの硬度との関係ではないかと思われます。
GX-93も製造後30年が経過しました。これまで想定していなかった故障が起き始めています。お客様にご迷惑をお掛けしないよう引き続き精進に努めなければなりません。