本日は珍しいデッキの修理を行いました。AKAIのカセットデッキ、GXC-710Dです。学生時代に欲しかったデッキの1台ですが、1975年発売ですからもう半世紀近く経過していることになります。
症状は「再生開始後間もなく自動で停止する」ということです。
今回のデッキは、九州にお住いの方から修理依頼がありましたが、60Hz仕様であるとのことから、私が住んでいる50Hz地域の北海道では正確な整備が行えないということで一旦は諦めていただきましたが、他店では取り扱いができないとのことになり、最終的に当店で修理を行うこととなりました。他店では治せないと聞くと意地でも治したくなります。
早速動作確認しました。このデッキは、テープ走行中は「TAPE RUN」という緑のランプが約一秒間隔で点滅しますが、途中で点滅が止まり、その後テープ走行も停止してしまいます。ということは、テープ走行の検知システムに不具合が発生していると思われます。
テープデッキのメーカーだけあって、モーター周りの造りがオープンリールデッキの流れを汲んでいます。
この時代のデッキの内部は、配線だらけです。ほぼすべて半田付けで、コネクタも使用されていませんので基盤にトラブルが発生すると大変なことになります。
メカ周りにアクセスするため、底板とフロントパネルを外します。
大変見づらい写真ですが、カウンターの真後ろに磁力でONOFFするリードスイッチがあります。その近くでメカからゴムベルト駆動される磁石が回転し、それによってスイッチがONOFFされ、リールが回転していることを検知するシステムです。
ここを眺めていると、時折このベルトがスリップしています。そのため、磁石が回転せずにリールが停止していると検知されて自動停止します。
このベルトの中心部にケーブルが貫通しているため、一旦ケーブルを取り外す必要があります。
メカ側はカセットホルダーを外しようやくベルトを取り外すことができました。細くて長い特殊なタイプですので、代替品がありません。
こういうときは、「バンコード」を使用します。長さが自由自在に加工でき、伸びにくいという特性を有していますが、テンションがゴムよりも強いため、リールに負荷がかからないように何度か作り直しては動作テストを行います。
キャプスタンベルトは再利用しますが、リールを駆動するベルトは新品に交換します。
ここで一旦組み上げて動作テストを行い、不具合が改善されたことを確認します。ところが、テープ速度が異常です。最初は周波数の違いのせいかと思いましたが、通常の倍以上の速さでリールが回転していますので違います。
よく見ると、ピンチローラーがキャプスタンに接触していません。アーム部が固着しています。
アームを外すとグリスが乾燥して真っ白になってます。CRCでふき取って再グリスします。
ピンチローラーは表面が劣化によりツルツルになっていますので、表面を軽く研磨し専用クリーナーで清掃します。
点検調整を行います。315Hzで録音したテープを再生しました。
周波数の違いを換算すると、60/50×262.2=314.6Hz
テープ速度は正常です。
ヘッドアジマスを調整します。
RECインジケーターの電球が切れています。24Vと特殊なタイプです。12Vの小型のムギ球2個を直列に接続します。
録音バランス、レベル調整を行います。ボリュームにガリが発生していましたので接点復活剤を塗布します。
ここでひとつ問題が発生しました。録音バランスは内部の半固定抵抗で調整を行うのですが、腐食が進行していて接触不良を起こしています。調整してもすぐに狂ってしまいますので、パーツの交換を行います。
調整が完了し最終段階です。レバースイッチのクリーニングを行いました。
このブログを書きながら、自己録再したテープを聴いています。50Hzですからテープ速度は2割ほど遅くなり音質的には不利なはずですが、はっきり言って驚きました。素晴らしい音です。やっぱりAKAIのデッキは良いですね。以上修理完了です。