カセットデッキにおいて、テープを巻き取るリールを回転させるメカニズムは、SONYのTC-K555ESLなどに多く採用されているギヤ式のアイドラーと、
A&DのGX-Z9000、9100に採用されているゴム式アイドラーの大きく分けて2種類があります。
ここではその優劣については語りませんが、ゴムを使用しているメカは、「摩擦力(グリップ力)」でリールを回転させています。
これは、先ほどの右の写真のメカでアイドラーを外したところですが、中心の金色のパーツは、リールモーターの軸部です。ここにアイドラーゴムが接触して左右リールに動力を伝達します。
では、再生時にはそれぞれどのような状態でしょうか?
右側のリールは、キャプスタンで送られたテープを巻き取る役目を担っていますが、一定のトルクで巻き取らないと、テープ速度に微妙な影響を及ぼします。したがって、「リールモーターの軸とアイドラーゴム」「アイドラーゴムとリール」は常にグリップ(ノンスリップ)する必要があります。なぜなら、スリップすると、トルクが変動しリールの回転が乱れるからです。ですから、それぞれの接触面はグリップ力が保たれる状態、摩擦係数が高ければ高いほど良いといえます。
次に左側のリールです。
リールの左側に写っている白いパーツはブレーキです。再生時にフェルト製のブレーキパッドがリールに接触し、テープ走行が安定するように常に摩擦力でリールにブレーキを掛け、キャプスタンで送られるテープを引っ張っています。つまり、ここは常にスリップ(セミグリップ)状態にあります。
ブレーキパッドが当たるリール面は、滑らかになっていますので、摩擦力の変動が極めて小さく、ブレーキはほぼ一定の効きとなっています。この当たり面が滑らかでなければリールに加わる摩擦力が常に変動し、テープ走行が不安定になります。
以前、こういった事例がありました。メカを分解すると、このリールの当たり面が、紙やすりのようなもので荒らされザラザラとしていました。おそらく、アイドラーゴムの劣化でリールのスリップが起きたものの、替えのゴムが無かったので、リール側の表面を荒らして摩擦力を高めようとしたのでしょう。
右側のリールは常にグリップ状態ですからこれでも問題は無いのですが、左側は、巻き戻し時は「アイドラーゴムのグリップ」、そして再生時は「ブレーキのスリップ」の状態が求められますので、一律にリールの当たり面を荒らした結果、テープ走行が不安定となって音揺れが酷い状態となっていました。なぜかというと、ブレーキパッドとその荒らされた面との摩擦力が不安定になり、ブレーキの効きが強くなったり弱くなったりし、テープ走行に悪影響を及ぼしたものと思われます。
カセットデッキのアイドラー周辺は、「グリップ」と「スリップ」をうまく利用して駆動するようになっていますので、潤滑剤を吹き付けるなど、そのバランスを崩すようなことは決してしてはいけません。