半年ほど前の話になります。
当店からA&DのカセットデッキGX-Z7000をご購入されたお客様からメールをいただきました。
その内容は、「購入したデッキで昔録音したテープを再生したが高音が出すぎて好みの音とは違ったので、長年保管している故障中のGX-Z5000を修理してほしい」というものです。
お持ちのテープはそのデッキで録音したもので、そのデッキをで昔聴いていた音を再現したいとのことです。
これは非常に難しいリクエストです。
なぜなら、デッキの音質は、一切調整を行わなくても、使用されているパーツの経年劣化により変化するからです。また、ヘッド周りの微妙な調整によっても音質は大きく変わります。
ということで、これら事情をお客様にご説明しましたが、「ヘッド周り(ヘッド・テープガイド)には一切触れない」「テープ速度の調整も不要」で修理してほしいということで結局引き受けることとなりました。
ヘッド周りに触れないで修理が可能か?ということですが、GX-Z7000などA&Dのデュアルキャプスタンモデルの場合は、グリス硬化によるピンチローラーアームの固着が起きるため、アームの脱着が必須となり、テープガイドとそのアームが一体となっているため、テープパス調整、アジマス調整を必ず行わなければばならず、その結果、完璧に調整したとしても100%元に戻すことは困難(元々調整が狂っている等の理由)で音質が微妙に変化することがあります。
一方、GX-Z5000では、左右テープガイドはヘッドブロックと一体化されているため、テープガイドの調整は行わずとも修理は可能です。
修理が完了し、動作良好となりました。念のためヘッドアジマスの状態を点検しましたが、ほぼ狂いもなく、音質もなかなかのものでしたので、早速お客様に機器をお送りしました。
数日してお客様からメールをいただいたのですが、結果としては「昔聴いていた音質とは異なる」というものでした。
本件について、私なりにいろいろ考えました。使用パーツやテープの経年劣化もありますが、それ以外の要因としては、「聴感自体の変化」が考えられます。人間の聴力は年々低下しますので、同じ曲を聴いても、おそらく若い頃に聞こえていた状態と現在聞こえるものは異なると考えられるからです。
それともうひとつ考えられるのは「記憶」です。人の記憶は年月の推移により曖昧になりますし、その一方で美化される傾向もあるかと思います。
これらの要因により、今回の結果に至ったのではないかと考えていますが、いずれも検証は困難であくまでも仮説でしかありません。
オーディオで好みの音を見つけるのは難しいものですし、ましてやほかの方のとなるとその比ではありませんが、そういった音の変化や探求というのもオーディオの楽しさのひとつとではあるのは事実ですね。