数年前にオークションでカセットデッキをご購入いただいた近郊のお客様からご連絡をいただきました。当初の用件は、そのカセットデッキの不具合に関するものでしたが、結局自己解決したということで、代わりにお持ちの故障デッキの修理依頼をいただきました。
KENWOODのKX-880SRⅡという機種です。880Gという機種はよく目にしますが、非常に珍しいモデルです。右リールが回転しないということでしたので、アイドラーゴムのスリップが原因だろうと想定をしていました。
テープを入れて動作確認すると、正常に動作し始めました。ところがすぐさま停止し、操作不可となってしまいました。早送りや巻き戻しのボタンを押していると動き始めることもあるのですが、やはりすぐに停止してしまいます。
カバーを開けました。SANKYO製のメカのようです。
初めての機種ですので少し手間取りましたがメカを取り出しました。メカを固定しているビス6本のほか、底板を固定しているビスを1本外さないと引っ掛かってメカを取り出すことができません。
バックパネルを外しました。アイドラーはゴム式ではなくギヤ式でした。ということはスリップではありません。この状態で一度コネクタを本体に接続し作動させてみると、モーター自体が停止するということがわかりました。
原因が判明しました。このリールモーターの故障です。型番はBHS7B03です。おそらく内部のブラシ部の接触不良でしょう。
このケースでのベストな選択は新品交換です。しかしネットで検索してもまるでヒットしませんので次の手を考えなければなりません。
1 同型のモーターを使用しているジャンク機を入手し換装
2 モーターに直接電源を接続し長時間回転させブラシ部の接触を自己回復させる
3 モーターを分解し直接接点を清掃
この中で最も回復度が高いのは3です。しかし「分解・組立が確実に行える構造である」という前提条件があります。モーターの分解整備で難しいのは組み立てです。ブラシがキチンと元の位置に収まるようにしなければなりません。
この条件をクリアできるか検討した結果、ネットにアップされている分解写真などの資料から、比較的分解組立が容易であることがわかりましたので作業に移ります。
モーター背面の基板、バックプレートの順に分解します。ブラシにダメージを与えないように慎重に行います。右写真で指でつまんでいるバックプレートに4箇所スリットがあるのがわかるかと思います。組み付けは、ここに治具を差し込んでブラシを広げながら行います。
ブラシとブラシが当たる整流子を清掃し組み立てます。
メカ内部にはモードスイッチ、テープセレクタ検出スイッチなどがありますので、接点を清掃します。
ピンチローラーは十分弾力がありますので、研磨清掃処置を行い再利用します。
DDキャプスタンモーターです。動作音が気になりましたので分解し、可動部にグリスを塗布します。
左写真はテープ検出スイッチです。接点清掃を行います。
この状態で動作テストです。もう途中で停止することはありません。
トレイも元通り組み付け、本体にメカを戻します。あとは回路に不具合が無いことを祈るだけです。
無事音出しOKでホッとしました。それでは調整に移ります。
315Hzのテープを再生しています。テープ速度が1%強遅い状況ですので、キャプスタンモーター基板の半固定抵抗を回して速度調整します。
ヘッドアジマス調整です。12.5KHzのテストテープを使用します。大幅な狂いはありません。右は調整後です。リサージュ波形と言いますが、右肩上がり45度となるように合わせます。
ここからの調整が肝心です。このデッキにはフロントパネルに調整ツマミがありませんので、内部基板上のトリマーで調整を行います。
左写真は入力(SOURCE)です。左から315Hz、1KHz、10KHzの3種類のサイン波が入力されています。それを録音し、再生したのが右写真です。10KHz(高域)がかなり減衰しているのがわかると思います。
バイアスはこの白い半固定抵抗回転させて調整します。今度はどうでしょうか?
見事フラットになりました。ただし、これはノーマルポジションでの調整です。本来はクロム、メタルの調整も行わなければなりませんが、この機種にはそれがありませんので、今回はノーマルテープ(TDK AD-X)で調整しました。
次は入出力レベル・バランスを見てみましょう。左はSOURCE、右はそれを録音した再生音です。ほぼ同一となるように調整します。
完成しました。この記事を書きながらお気に入りのテープを再生していますが、素晴らしい音ですね。