今回は珍しい故障に遭遇しました。
SONYのTC-K333ESJですが、
トレイがここまでしか開きません。オーナー様のお話では、テープをセットして蓋を閉めるときに「ガリッ」と音がして、それ以降この状態ということです。
よく見てみると、パーツが中から出てきました。これはテープ上面に設けられた検出孔を検出するスイッチのカバーです。これが脱落して内部に引っ掛かり、テープ取り出しに支障となっていたようです。それにしても、そんな簡単に外れる部品ではないのですが、何か理由でもあるのでしょうか?
早速カバーを開けてメカを取り出します。
ここのカバーです。誤消去防止検知用のスイッチです。これとは別ですが、この左の写真を見て「あれ?」と思った方はプロです。それは後ほど。
なぜカバーが外れたのでしょうか?最初はスイッチが変形してカセットと干渉したのかと思いましたが、そうではないようです。
閉じ込められたカセットを救出するためにはトレイが完全に開かなければばりませんが、なぜか中途半端にしか開きません。
なぜかというと、左側のキャプスタンにテープが巻き付いていました。先ほどの故障とは無関係と思われますが、同時に2か所不具合起きるということは非常に珍しいです。キャプスタンのフライホイールを手で回して何とか救出することができました。
ようやくトレイをメカから分離することができました。
左側のピンチローラーを取り外そうとしたところシャフトごと抜けてきました。以前当ブログでも記事にした製造上の欠陥です。先ほどのテープの巻き込みはこれが原因だった可能性があります。
キャプスタンモーターのブロックを切り離します。
先ほど抜けたのはこの部分です。圧入で組まれています。
モーターを分解します。
圧入はパーツ同士の摩擦力で固定されています。摩擦力を回復するために細かい傷を付けます。
正規の位置(左写真で47.7~47.8mm前後)まで打ち込みます。
キャプスタンのフライホイールは、ベルト当たり面のザラツキを除去します。
モーター基板の電解コンデンサーは液漏れにより端子が汚れています。
腐食が進行していますが基板のダメージはありません。新品を取り付けます。
メカフロント部のモーターブロックを分離します。ベルトは新品に交換します。
ロータリーエンコーダーを取り外します。
分解してみると接点が汚れているのが分かります。清掃しスライド接点専用グリスを塗布します。
オートテープセレクター検出スイッチの接点を清掃するためにカバーを外しますが・・・いつもと様子が異なります。スイッチが5ケありますが、この機種は確か4ケのはずです。
手前は別の機体のものですが、スイッチの数が違うことがわかります。1ケ多いのは、右端の誤消去防止検出用です。両側に付いているということはオートリバース機のものということになります。
SONYのデッキのうち、高価格帯のオートリバース機はESシリーズのメカに類似しています。ただし、オートリバースですので、誤消去防止検出スイッチはA面B面それぞれに必要となるため、ESシリーズよりもスイッチがひとつ多くなります。
オーナー様にその旨確認したところ、5年ほど前に中古品として購入されたということですので、前オーナーが何らかの理由でこのモーターブロックを交換したということになります。スイッチがひとつ多いということだけで動作には影響無いようですので、このまま作業を続けます。
ところが、接点の清掃を終え、カバーを元に戻そうとしたところ、元々外れていたカバーがやはり簡単に取れてしまいます。最初は固定用の爪が破損していると思いましたがそうではありませんでした。
右が脱落していたもの、左は手持ちパーツです。右のものがわずかに開いています。そのため固定用の爪が引っ掛かりにくくなっていたようです。これが今回の故障の原因です。自然にはこうなりませんので、人為的と思われますが、前述のモーターブロック交換時に何かがあったのでしょうね。
ピンチローラーの状態は良好です。専用クリーナーで清掃します。ヘッドの清掃、消磁を行います。
今回のメカは少しイレギュラーな点が多いので、本体に組み込む前にメカのケーブルのみ接続して動作テストを行います。テープ走行OK、
オートテープセレクターOKです。
テープパスも点検、一直線であって、かつシワがないか目視点検します。
本体に組み込んで調整に移ります。テープ速度は規定値内に収まっています。
ヘッドアジマスです。SONYのデッキにしては珍しく狂いはありません。
入力と出力バランスを調整します。
完成しました。動作音質良好です。貴方のお持ちのデッキも一度メンテナンスを行ってはいかがですか?