久しぶりにDTC-55ESの修理です。
キズのほとんど無い美品です。この機種と500ES、300ESは、メカがほぼ同じですが、長期間不使用の状態でテープをセットすると、「ギギギギギギ」といってメカが壊れます。私もこれまで2度ほど経験があります。なぜかというと、それは後ほど説明します。
ということで、動作確認を行わないで修理を進めます。内部も綺麗です。
55ESの修理依頼をいただいたときに、嫌な予感がしましたが的中しました。ヘッドが固着しています。回ることは回りますが、自力で回転することは不可能な状態です。この状態から回復した事例はこれまでありません。オーナー様からヘッド交換にGOサインが出ましたので、ヘッドを探すことにします。
ヘッドが入手できましたので修理を再開します。メカを取り出してカセットホルダーを切り離します。
おそらくこれまでに修理歴は無いと思われます。スポンジ製のヘッドクリーナーが機能していません。
不要なものは撤去します。カスが散らばっていますので清掃します。
✖を付けたのが元々のヘッドです。入手したヘッドも見る限り状態は良好です。
交換は簡単ですが、後ほど調整を行います。
DTC-1000ESからこの機種までの最大のウイークポイント、ロータリーエンコーダーのギヤ割れです。ギヤに開けられた2か所の穴の部分に割れが生じています。そのうち真っ二つになって不動になります。
半田ゴテでワイヤーを埋め込み、その上から弾性接着剤を盛ります。差し込み部分はテーパー状になっていて、ギヤに負荷を与えますので、少し削ります。
ピンチローラーの点検を行います。状態は良好です。
メカの分解を行います。基板、リールメカ、キャプスタンモーター、リングギヤ駆動モーターの順に取り外します。
緊張の一瞬です。この白いギヤと3枚目の写真のアイボリーのギヤが欠けていることが少なくありません。・・・大丈夫です。
リングギヤを取り外します。製造時に塗布されたグリスが固まっています。
CRCで古いグリスを溶かしながら除去し、シリコングリスに置換します。
元通り組み立てます。
この機種と500ES(M100)、300ESは、モーターの動力はプラスチック製のギヤを介してリングギヤに伝達されます。リングギヤの可動部に塗布されたグリスが固まって動きが悪くなると、モーターの動力の逃げ場が無くなり、プラスチック製のギヤを破壊します。ほかの機種は途中にゴムベルトを介していますので、異常な負荷が加わったときは、そこでスリップして力を逃がしますので破損することはありません。
リールメカです。使用時間が短いのでしょうか?ブレーキの状態は良好です。
回転部分にグリスを施し摩擦を低減します。
メカを組み立て、本体と仮接続します。
テープをローディングしたときに、ピンチローラーとキャプスタンとの間隔が1mm程度になるようにロータリーエンコーダーの位置調整を行います。それでも合わないときはギヤの噛み合わせをひとコマずらします。
音は出ましたが、雑音混じりです。また、この機種は巻き戻しと早送りの最後に近い位置で、リールの回転が停止するという不具合が起きやすいため、ブレーキのかかり具合を調整する必要があります。それでも停止する場合はテープが原因です。
ヘッドの信号を点検します。ヘッドとテープの位置関係に問題があります。調整を行います。
ヘッドホンVOLにガリが起きています。SONYのこの年代のデッキはほぼ100%起こります。
55ESではフロントパネル脱着時に注意が必要です。
ヘッドホンアンプのアースが本体と底板の間に挟まっています。これを元通りにしないと、ヘッドホンでの再生音がボーカル抜きの音になります。
フロントパネルを外して、VOL(青い四角のパーツ)の隙間から接点復活剤を注入します。
各モードでの録音再生状況を確認し、完成です。