前回の「482Z」に引き続き、今回は無印「482」の修理依頼をいただきました。
オーナー様のお話では、昨年、「時々再生が勝手に停止する」不具合が発生し、オーディオ専門店でベルト4本の交換等を行ったということです。しかし、不具合は解消されず、そのうち、保証期間が過ぎ、さらには、まったく操作を受け付けないといった状態となり、当店に白羽の矢が立ったというのが今回の経緯です。是非ともオーナー様の期待に応えたいと思います。
早速カバーを開けて点検します。
この機体には3か所改造されている箇所があります。1か所は、電圧制御を行うトランジスタが、写真のように移設されています。これは、昨年修理した業者が放熱対策として行ったとのことです。このトランジスタの過熱による誤作動が不具合の原因と判断したのでしょうか?
2か所目です。メカを制御するカムにスイッチが増設されています。LINEOUTにリレーが接続され、再生や録音時にONになるように設置されていますので、無再生時のノイズ対策と思われます。
しかし、非常に細いケーブルが使用されており、信頼性がありませんので、太めのケーブル(黄色)に置換しました。
3か所目は、電解コンデンサーの交換です。すべて「BLACKGATE」という、高性能タイプに交換されています。ただし、通常はオーディオ回路及び電源回路に使用するものですので、コントロール回路に使用しても効果はありません。
「時々停止する」不具合は、これまで他の機種でも経験しています。原因はほとんどがリールモーター内部接点の接触不良です。今回の機体も最初はそれが原因かと思いました。
機器が到着し、状態を確認した結果、「時々停止する」不具合と「操作を受け付けない」故障は別の故障であることがわかりました。
不具合の状況ですが、操作してもまったく無反応かと思いきや、再生ボタンを押すと、キャプスタンの回転は始まります。ただし、それ以外はまったく無反応です。また、ボタンのランプが点灯しません。
なお、手動でメカのカムを強制的に回転させるとリールが回転し再生が始まり音が出ます。ただし、レベルメーターは振れません。(レベルメーターの不具合については後ほど原因が判明します。)
メカの動作を担っているカムを回転させるコントロールモーターには電圧が印加されており、カムを手動で回転させるとその電圧も変化します。ということは、カムモーターの動き、すなわち電圧の掛かり具合に問題があるようです。
以上の状況から、コントロール回路に故障が生じているものと思われます。
コントロール回路のダイアグラムを見ながら、動作を担っているトランジスタとICを中心に点検を行います。
かなり時間を要しましたが、TR413の2SD471というトランジスタの故障を見つけました。リールモーター関連のトランジスタですが、この故障によりコントロール回路に影響を及ぼしたという可能性も否定できませんので、すぐさま部品を発注しました。
部品到着までの間、リールモーターに直接電圧を与え、高速回転させることによる内部接点の自己回復を図ります。
2日ほどで到着しました。
早速交換しました。・・・が、まったく状態は変わりません。このトランジスタ故障は単なる偶然でしょうか?それとも他の故障に誘発されたのでしょうか?
点検を進めます。回路図はありますので、コントロールモーターに電圧を供給している回路を中心に、ICやトランジスタ、ダイオードなどの故障しやすいパーツをひとつづつ点検していきます。大変時間がかかる作業です。
大きな図面ですので、4枚に分けてプリントアウトし、貼り合わせて使用します。丸一日以上かけて点検を行いましたが、IC、トランジスタ、ダイオード、抵抗には異状が認められません。今回はギブアップでしょうか?
それでも諦めずに、再度サービスマニュアルを確認します。ナカミチのマニュアルは丁寧な解説が記載されています。これはパワーミュート回路の解説です。
ほとんどのデッキは、電源ON時に、数秒間ミュートが掛かり操作できないように作られています。おそらくポップノイズ対策と、フライホイールの回転の安定を待つためと思われますが、デッキの不具合の状況から、この回路に問題が起きている(ミュートが掛かりっぱなし)可能性が高いのではないかと考えました。しかし、点検していないパーツは電解コンデンサーのみです。外見上は液漏れなどは認められませんが、とりあえず交換してみます。
遂に突き止めました。BLACKGATEの10μF/50Vのコンデンサーを交換(コントロール回路ですので、普通品に交換しても音質への影響はありません)したところ、
メカが動作するようになりました。交換されていたコンデンサーが原因とは想定外でした。しかし、喜びも束の間、再生が始まっても数秒で停止してしまいます。これがオーナー様がおっしゃっていた最初の不具合のようです。
メカの動作を目視点検します。左右リールにモーターの動力を伝達するアイドラーがスリップしています。指で触るとカチカチに硬化しています。研磨による再利用が可能な状態であれば、メカを脱着せずにヤスリ掛けができるのですが、研磨では改善が期待できません。
ナカミチのこのタイプのメカのアイドラー交換は厄介です。メカを脱着し、ほぼ分解しないと交換ができません。昨年修理した業者がついでに交換してくれれば2度手間にならず、オーナー様の負担も少なく済んだのですが、仕方ありません。
作業を再開します。フロントパネル、メーター基板を取り外し、
ヘッドのケーブルを引き抜くためにはスイッチ基板の脱着も必要です。
メカ正面の四隅にある固定ネジを外し、メカを取り出します。
メカを前に倒して背面のキャプスタンモーターブロックを切り離し、フライホイールを取り外します。
さらに二層になっているメカを分離します。
これでようやくアイドラーにアクセスすることができました。
分解し、ゴムリングを交換します。元々のものはカチカチで割れてしまいました。
ゴムが接する箇所をアルコール清掃し、アイドラーを取り付けます。
分解したついでにリーフスイッチの接点を清掃します。
キャプスタンがメカを貫通する箇所にグリスを塗布し組み付けます。
背面の作業が完了しました。
続いてピンチローラーのメンテナンスを行います。
ヘッドブロックは簡単に脱着できます。よくできたメカです。
ピンチローラーを外して寸法を計測します。径11mm、幅7mm、穴径1.8mmです。ネットで互換品を探しましたが、このサイズは見つかりません。
そこで、再利用を図るため、ツルツルになった表面を研磨し、専用クリーナーで処理しました。右側が処理済のものですが、表面がしっとりしていて、十分使用できるレベルです。
元通りに組み付けて、
スイッチ基板を取り付け、スライドスイッチの隙間から接点復活剤を吹き付けます。メーター基板を取り付けて、
無事問題なく再生します。が、相変わらずメーターが振れません。また、録音もできませんが、オーナー様との協議により、今回の修理は基本的に再生のみということで進めることとなりました。
メーターを調整するための半固定抵抗の接触不良が原因でしたので、交換します。
レベル調整を行います。
ここから調整に移ります。まずはテープ速度です。315Hzの信号が録音されたテープを再生していますが、ほぼ狂いはありません。
キャプスタンモーターの背面の調整孔にドライバーを差し込んで合わせます。
続いてヘッドアジマスです。わずかに狂いが見られます。ヘッド右側のギヤを回して調整します。
調整後です。
修理完了です。オーナー様の思い入れのあるデッキが復活しひと安心です。
【2020/1/19追記】
翌日の朝、オーナー様に完成報告する前に、念のため動作確認を行いました。しかし、ヘッドは上がるものの、リールが一瞬回りかけたと思ったらすぐに停止してしまいます。早送りと巻き戻しは問題ありません。これにはさすがに焦りました。
しかし、テープを取り出して再生ボタンを押すと、リールは回転し続けます。よくよく観察すると、ピンチローラーが上がり切っていません。そのためテープ走行できずにオートストップが作動したようです。
(写真は修理後です)ヘッドとピンチローラーの上下動は、コントロールモーターが担っており、その動作具合は、このポテンショメーター(可変抵抗)が検知しコントロールしています。
ところが、そのポテンショメーターに接続されている赤いケーブルに触れると、コントロールモーターが誤作動します。接触不良でしょうか?
幸いにもメカを脱着しなくても取り外すことができました。
この端子に接触不良が起きています。これは交換するしかありません。
10KΩBカーブです。かなりの偶然ですが、以前パイオニアのCT-970を修理した際に多めに注文した新品のストックがありましたので、シャフト部を削って加工します。
誤作動は無くなりました。これでようやくオーナー様に納品できます。