以前当店でDATデッキの修理されたお客様から、カセットデッキの修理依頼をいただきました。
KENWOODの3ヘッドダブルキャプスタンデッキ、KX-9010です。
再生、早送り、巻き戻し、いずれもリールが回転しません。
カバーを開けてメカを取り出します。取り付けビスは底面2背面4の計6本です。メカはナカミチのZX-5、CR-40と同じ系列のものが採用されています。
左側リールにブレーキをかけるベルトが溶けています。
新しいベルトを取り付けました。
まずはメカをコントロールするこの接点をメンテナンスします。
脱着して接点を清掃しました。
リールが回転するようになりましたが、時々操作ボタンに無反応です。
モーター内部の接点が接触不良を起こしています。テープを抜き取ったカセットを用意し、
デッキにセットするとメカが動作するようになりますので、早送り状態にして放置します。早送り時はモーター内部の接触不良が起きても慣性で回転し続け、勝手に止まることはありません。
これで接点が自己回復することがあるのですが、半日経ってもあまり改善は見られませんでした。
以前もKENWOODの別の機種(KX-880SRⅡ)で行いましたが、モーターを分解して接点を清掃します。内部のブラシ部は繊細な構造になっていて、分解組立に失敗すると復旧不能になりますので、できる限り避けたい作業です。
モーター背面の基板を取り外し、
ブラシ部を取り外しました。
接点は酸化し黒くなっています。
リューターで酸化被膜を研磨します。
ブラシを破損しないよう、治具(針金)で広げながら組み付けます。
内部接点に当たりをつけるため、先ほどの空のテープをセットし、半日程度早送り状態で放置します。
リールモーターの接点不良による不具合はモーターが低速時に発生します。したがいまして、動作確認は、写真のように右側リールの回転が超低速になるテープの後半部分で重点的に行います。
モーターは状態が改善されましたので、メンテナンスを継続します。テープのセットを検知するスイッチの接点清掃、
テープポジション、誤消去検知スイッチの接点清掃を行います。
メカ背面の基板を取り外し、
キャプスタン・フライホイールを取り外します。ベルトは太めのものが使用されていますが、入手不可ですので、AKAIのGX機用の5mm幅のものを取り付けます。
キャプスタンにグリスアップします。
硬化が進行しているピンチローラーを交換します。これもAKAIのGX、SONYのES機用と同サイズです。
これでメカの整備は終了です。KENWOODのメカで感心することは、この左側のピンチローラーアームの構造です。脱着を行っても調整不要なように設計されています。
調整に移ります。まずはテープ速度です。315Hzのテープを再生していますが、ベルト交換の影響もあり1%以上の狂いが生じています。
背面の基板に調整用の半固定抵抗がありますので、それを回して合わせます。なお、速度は、電源投入後から次第に変化しますので、メカが温まってから行う必要があります(クオーツロック機は自動調整です)。
調整後です。数値は0.2~0.5Hz程度の上下動がありますので写真の値となっています。
アジマスを点検します。かなりの狂いがあります。
写真中央のネジがアジマス調整用です。右写真は調整後です。高域の出力がアップしました。
ATCSでバイアス調整を行い、入力と出力レベルを調整します。
CDを録音再生モニターしています。かなり良好な音質です。