以前GX-9100EVを当店で修理されたお客様から、今回は、YAMAHAのKX-1000の修理依頼をいただきました。
非常に綺麗な機体です。再生は良好ということですが、録音時の消去不良とバイアス調整不良という不具合を抱えています。ただし、お客様は現在録音は行わないということで、今回は、走行系のメンテナンスがメインとなります。とはいえ、消去不良等についても可能な限り対処したいと思います。
録音済みのテープを用いて上書きしてみます。最初は正常でしたが、途中から消去不良の症状が発生し、元々録音されていた音が聞こえだします。何度かあれこれと試しているうちに症状は出なくなりましたが、テープを替えたりすると再び不調となります。回路の問題であれば、不定期に不具合が起きるということは考えにくいので、原因は走行系、テープテンションの不具合と思われます。また、バイアス調整の不良も消去不良が原因と考えられます。
試しに、不具合が発生しているときに左側のリールにドライバーを当てて抵抗を加えて(テンションを強く)みます。すると予想通り、その間は不具合は解消されます。
トルクメーターでテンションの状況を確認します。しかし、問題は見られません。
このトルクメーターは、
1 左側リール ~ 左側ピンチローラー
2 右側ピンチローラー ~ 右側リール
この区間のテープテンションしかわかりません。つまり、ヘッドのある「左側ピンチローラー ~ 右側ピンチローラー」の間のテンションは測定できません。しかし、この区間のテンションが弱くなり、テープとヘッドのタッチが悪くなっている可能性があります。ただし、残念ながら、この区間のテンションは、左右キャプスタンの回転差から発生しますので、調整はできません。
そこで、テープテンションを改善するために「ある工夫(企業秘密です)」を施してみることにしました。
消去不良は改善されました。このことについては、後ほど少し長時間のチェックを行います。
メンテナンスを行います。まずはカバーを開けます。
フロントパネルのツマミ類のカバー開閉に不具合があるということでしたので、可動部にシリコンスプレーを施しましたが、プラスチックパーツの変形が原因でしたので、あまり改善は見られませんでした。
メカを降ろしました。
バックテンションベルトを交換します。
先ほどのトルクを測定した結果、バックテンションは少し強めでしたので、少し細めのベルトに交換します。
カセットホルダーを取り外し、
ピンチローラーを同サイズの新品に交換します。
テープがセットされたことを検出するスイッチの接点を清掃します。
メカ背面のプレートを取り外します。
フライホイールを取り外すとテープポジション検出スイッチにアクセスすることができます。
接点を清掃します。
キャプスタンのシャフトにグリスを塗布し、ベルトを新品交換します。
このメカ最大のウイークポイント、モード検出スイッチです。
脱着して接点を清掃します。
アイドラーゴムを新品交換します。
メカのメンテナンスが完了しました。
メカを本体に組み込み、調整に移ります。315Hzのテープを再生して速度の調整を行います。
ヘッドアジマスの調整を行います。
バイアス調整を行った状態で、左右同レベルの信号を入力し、それを録音再生モニターしながらバランス調整を行います。
数種類のテープで録音状態を確認し、完了です。