少し前に当店で修理したPIONEER製CT-8のオーナー様から、「到着時は問題なかったが、使用しているうちに不具合が発生した」とメールをいただきました。
メールの内容としては、
「巻き戻しをしようとしたところ、左のリールが回らなくなった」
「カセットテープを入れない状態での巻き戻しでは、左のリールは回るが、テープを入れるとガタガタ微振動するだけで回らない」
「早送りは、正常にリールは回るが、途中で早送りを停止すると、テープがカセットの内部で大きくたわんでしまう」
ということで、状況のビデオも添付していただきました。
リールが回らないということは、アイドラーゴムがスリップしているのでしょうか?また、停止時にテープが撓むということは、左リールのブレーキの不具合でしょうか?
デッキをお送りいただいて点検すれば原因はすぐにわかると思いますが、当店での修理が原因でない場合、オーナー様に往復の送料をご負担いただくことになります。少し前にデッキをお返ししたばかりですので、それは避けたいところです。まずは上記の状況を分析します。
先日の修理でアイドラーは新品交換しています。このアイドラーで早送りと巻き戻し時に左右リールを駆動します。したがって、アイドラーに不具合がある場合は、100%ではありませんが、巻き戻しのみだけではなく、かなりの高確率で早送りにも同じ症状がおきるはずです。
次に、停止時のテープのたわみですが、ブレーキ不良(ブレーキが効かない)が疑わしいところですが、あまり故障例がありませんし、左リールが回転しない不具合と同時に起きることは確率的にほぼ無いと考えられます。
最後のヒントは、テープをセットすると回転しない(ガタガタ微振動する)という点です。この状況は以前にほかのデッキで何度も経験済みです。ガタガタ振動するというのは、デッキ側のリールは回転しているが、テープのハブが回転しないときに起こることがあります。つまり、テープのハブとデッキ側のリールがキチンと噛み合っていないということです。ここで不具合の原因の予想が付きました。
これは私が所有しているCT-8です。予想が的中しているかこのデッキで立証します。
左右リールがあります。
左リールの先端を指で引っ張ります。すると少し抜けかかった状態となります。右側リールと比べると前方にせり出しているのがわかると思います。
この状態でテープをセットすると、オーナー様のお話しとまったく同じ症状が起こります。早速、リールの先端を押し付けるよう、返信メールを送ります。
ほどなくして、不具合が解消されたというメールをいただきました。
リールの先端の固定方法は、機種によって異なり、Eリングなどの留め具で固定しているものもありますが、今回のCT-8のように、単に差し込んでいるだけというものも数多くあります。特に、このデッキは、テープの着脱は手動ですので、テープを取り出すときに、テープのハブがリールに引っ掛かって、今回のような状態になる可能性が高いと言えます。
今回は、オーナー様の不具合に対する的確な観察力による詳細な状況報告をいただいたことより、メールのやりとりで解消することができました。