Nakamichiの高級機、CR-70の修理依頼をいただきました。
ご依頼は大きく3点です。
再生を開始すると、「①右CH出力不良(メーターは振れるが音が出ない。ヘッドホン出力も同様)」、「②テープがたるんで再生が停止する」、
「③ロジック基板のメモリ用電池の消耗」、以上です。なお、テープ走行が勝手に停止するという故障のうち、テープ後半部で多発する場合は、リールモーター内部接点の不具合であることがほとんどです。
まずは出力不良の修理を行います。アンプ基板は底部に配置されています。「メーターは振れるが音が出ない」というケースでは、出力端子の接触不良がまずは考えられますが、今回は、ヘッドホン出力も同様ですので違います。また、メーターは振れるということはアンプの最終段階でのトラブルということになりますが、片CHのみまったく音が出ないという今回のようなケースは稀です。
不具合個所を特定するため、PCでサイン波を発生させ、それをデッキのINPUTに入力します。
回路図を見ながら、その信号がどこで途切れるか確認するため、アンプ基板上にオシロスコープを当てて追っていきます。すると、OUTPUT-VOLの直後で信号が途絶えました。OUTPUT-VOLは最初の点検時に接触不良を疑い何度も左右に回したものの、一向に改善する気配は見られなかったのですが、やはりVOLの問題だったようです。
フロントパネルの化粧パネル、操作パネルを取り外します。
これでVOL類にアクセスできますので、VOL背面の隙間から接点復活剤を微量注入します。
これで出力不良は無事解消されました。
続いてメモリ用ボタン電池の交換です。3VのCR2032というタイプですが、消耗して0.4V程度の電圧となっています。
同じ3Vですが、容量の大きいCR2450という電池に交換します。
続いてメカの整備に移ります。この機種は、基板が3層(上からロジック基板、ドルビー基板、アンプ基板)になっています。メカを降ろすためには、一番下のアンプ基板に接続されているヘッドのコネクタを引き抜く必要があります。
ロジック基板と、その下のドルビー基板は、片ヒンジになっていますので、順番にOPENしていきます。
コネクタを切り離し、メカを降ろしました。
このメカでは必ず点検しなければならない箇所があります。
予想通り、バックテンション用のベルトがありません。どこにあるかというと、
リールに絡みついていましたので、取り除いて新品交換します。
カセット挿入を検知するスイッチの接点を磨きます。
メカの背面です。順番に分解していきます。
キャプスタンのシャフトにグリスを塗布し、新しいベルトに交換します。
メカの動作をコントロールするカムユニットを取り外しました。
カムを取り外し、スイッチの接点を磨きます。その後、固着しやすいモーターに直接電圧を加え、長時間空転させます。
走行不良の原因は、このリールモーターです。ブラシを傷めないよう慎重に背面のパネルを取り外します。
内部の接点が酸化し黒くなっています。そのため、再生時、特に低速回転になるテープの後半部に、接触不良によりモーターが停止します。早送りや巻き戻し時はモーターが高速回転していますので、一時的に接触不良が発生しても慣性で回っている間に接触が回復し、停止することはありません。
酸化被膜を除去します。組み立て時は、治具を使用してブラシを広げながらはめ込みます。
アイドラーギヤを一旦取り外し、モーターを無負荷状態にします。そして直接電圧を加え、半日程度、接点の慣らし運転を行います。
テープポジション検出スイッチの接点を磨きます。
メカを組み立てて、本体に戻し走行テストを行います。
315Hzの信号が記録されたテープを再生し速度の調整を行います。
テストテープで再生ヘッドのアジマスを調整し、その状態で、
録音ヘッドのアジマス調整を行います。
オートキャリブレーション後に録再バランス調整を行います。
複数のテープで録再状況を確認し、完成です。