少し前に当店で修理したXK-009ですが、「寒いときにテープ走行が停止するなど動作不良になる。ただし、温まると正常に戻る。」というご連絡をいただきました。
これまで同様の経験はしたことはありませんが、寒いときに動作不良ということは、アイドラーゴムが固くなってスリップしているのだろうと思い、少し硬度の低いタイプのゴムリングに交換し、お客様の元にお返ししました。
ところが、「やはり寒いときは調子が悪い」とのご連絡をいただき再修理となりました。
機器が到着しました。
動作確認を行いましたが、テープ走行に問題は起こりません。ただし、このときの室温は25度程度ですので、お客様の環境とは異なります。私が住んでいる北海道では、この時期はほぼ24時間暖房ですので、室内が寒くなることはほとんどなく、服装も半袖シャツで過ごしています。
今回は、念のため、低温時でもゴムの硬度が変化しないシリコンゴムのアイドラーゴムに交換します。
そして、窓を開けて外気を取り込み、部屋を寒くします。
2時間ほど経ちました。室温は7度になり、機器も冷え切った状態となりました。
動作確認を行いました。すると、リールが回転しているにも関わらず、再生が即停止しました。やはり低温時には不具合が起きるようです。
カウンターもほぼ動きませんので、回転センサー回路に不具合が起きていると考えられます。1970代頃のカセットデッキでは、リールからベルトを介してカウンターやセンサーシステムを駆動していましたが、1980年代以降は、リールの回転を直接センサーで検知しますので、スリップが原因ということはあり得ません。
そこで考えられる原因は2つです。ひとつはセンサーの故障、もうひとつは接触不良です。センサーの入手は困難ですので、その場合はゲームオーバーです。
しかし、温度により不具合が出るということは、熱によるパーツの膨張や収縮で接触が変化しているという可能性があります。
オートストップ関連の回路周辺の半田クラックを目視で探しますが、それらしいものは見られません。一応、関係しそうな箇所を再半田しましたが、状況に変化はありません。
かなり点検に時間を要しましたが、不具合個所の特定には至りませんでした。
それでも、点検を続けていると、新たなことがわかりました。部屋の室温が25度程度になり、機器も温まりましたが、不具合は改善されませんでしたので、必ずしも低温時に発生するわけではないことがわかりました。
続いて、この故障状態でのセンサーの状況を確認するため、センサー部の電圧を測定することにしました。
再生を開始しても1秒ほどで停止しますが、その間に電圧の測定を行います。ところが、回転センサーのコネクタ部にテスターを当てたとたん、なぜかは分かりませんが、不具合が突然解消され、カウンターも正常に動くようになりました。試しにテスターを離すと途端に停止しましたので、テスターを当てたことにより接触不良が解消されたということでしょうか?
テスター自体の内部抵抗は1MΩですので、それと同じ抵抗をコネクターに差し込んでみました。これでまったく正常な状態に戻りました。以前、A&Dのデッキで経験しましたが、肉眼では確認できない基板のプリントパターンの絶縁がどこかに発生しているのでしょうか?
しかし、皮肉なことに、昨日までは外気温は最低で0度ほどであったのが、今日から2日間ほどは15度程度に上昇するとのことで、低温時の状態は当分の間、確認することができません。ということで、結果は後日に続きます。
【以後11/12追加分】
2日ぶりに気温が下がりましたので、テストを行います。外気を取り込んで2時間経過し、室温は5℃を下回っています。
この状態で再生を開始すると、リールは回転し始めますが、即停止します。
先日と同様、コネクタに1MΩの抵抗を接続してみると、勝手に停止することは無くなりました。
コネクタの端子部に抵抗を半田付けします。念のため再度動作確認を行います。
接触不良が100%解消されたと判断するには、長期間にわたり確認することが必要です。そのため、今回は、まずはオーナー様の元に機器をお返しし、3か月以上再発しなかった場合に代金をお支払いいただくこととしました。
接触不良の解消は、修理者にとって永遠の課題です。