アナログテープデッキでは、テープごとの特性に合わせたバイアス調整を行うことにより、そのテープの性能を最大限に引き出すことができます。
カセットデッキのバイアスの調整に関しては、発売当初はユーザーによる調整が行えない「固定方式」から始まりましたが、高音質へのニーズに対応するため、「手動可変方式」「半自動方式」、そして最終的には「全自動方式」と進化を遂げました。
そのうち、「手動可変方式」については、自分の耳を頼りに調整を行うことになりますが、全盛期では非常に多くの種類のテープが販売されていましたので、調整はなかなか大変な作業で、ユーザーはもちろんのこと、メーカーも相当苦心していたようです。
上表は、PIONEERのCT-8の取説の一部を抜粋したものです。ユーザーが安易にバイアス設定できるよう、当時の主要銘柄のテープに対する、メーカー推奨の設定が記されています。BASFやAGFAなんて懐かしいですね。
これでユーザーは安心して設定することができますが、テープを替えるたびに取説を開いて確認しなければなりませんので、それはそれで面倒です。
そこでメーカーは何を考えたかというと、写真は、以前、部品取り用として入手した、AIWAのAD-7400のフロントパネルのバイアス調整ツマミですが、そこには、メーカー推奨のバイアス設定の位置をユーザーにお知らせするためのシールが貼られていました。確かに、これだといちいち取説を開く必要はありませんね。
それでも、録音時に同時再生可能な3ヘッド機と異なり、この機種のような2ヘッド機の場合は、より高音質化を図るために「調整ー録音ー再生(音質確認)ー調整ー録音・・・」というかなりの手間をかけることも少なくありませんでした。
その後の半自動や全自動の調整方式では、そんな苦労は必要ではなくなりましたが、そういった苦労も含め、メディアをセットしたり、裏返したり、ツマミを回したりと色々面倒な儀式を伴う作業こそがアナログオーディオの魅力であり楽しさではないかと私は思っています。