近郊にお住いの方から、PIONEERの3ヘッドデュアルキャプスタンカセットデッキ、CT-A7の修理依頼をいただきました。
20年以上保管状態にあったということで不動になっています。
電源を入れると内部からモーター音が聞こえますが、イジェクト(電動で開閉します)が効かないためテープが取り出せません。
カバーを開けます。
キャプスタンベルトとモードベルトが溶け切れています。
手動でトレイを開けてテープを取り出します。
メカは、底部2か所、正面4か所のビスで固定されています。正面のビスを緩めるためには、フロントの化粧パネルを取り外さなければなりません。
メカを降ろします。この機種のメカは、後継機のT-1000などと基本的な部分は同じですので、必要となるメンテナンスも共通です。
キャプスタンモーターと背面のパネルを取り外すとフライホイールが現れます。
溶けたベルトがモータープーリーやフライホイールに付着しています。
アルコールで清掃し、新しいベルト(径73mm、径65mm)を掛けます。
ヘッドやピンチローラーの上下動とトレイ開閉を行うユニットのベルトを交換します。径40mmです。
これはメカの動作状態を検知するロータリーエンコーダーです。隙間から接点復活剤を処置します。
カセットハウジング内の化粧パネルを取り外します。
アイドラーにアクセスするため、支障となるパーツを分解します。
硬化したゴムリングを交換します。
左右リールにグリスアップします。
メカを本体に戻して動作確認を行います。しかし、キャプスタンは回転していますが、一切操作を受け付けません。
あれこれとやっているうちに、なぜかトレイも開き、テープ走行もするようになりました。
しかし、筐体や電源基板に触れると動作停止します。どこかに接触不良が起きているのでしょうか?
ICの放熱板が筐体に固定されていますので、熱膨張・収縮の影響で周辺に半田クラックが発生している可能性があります。
基板を取り外し点検したところ、予想通りIC取り付け部に半田クラックが見られましたので再半田を行います。
不具合は解消されました。しかし、3点ほど新たな不具合が見つかりました。
1点目はカウンター表示です。写真は「0000」表示ですが、よく見るとカウンターの3桁目の一部が点灯していません。これは修理できません。
2点目はイジェクトボタンです。OPENはしますが、CLOSEしません。CLOSEするためには、トレイを手で押し付けるか、操作ボタンを押す必要があります。
3点目は、録音です。クロムテープ使用時のみ、左CHが録音されません。ただし、メイン基板を指で押すと回復することがありますので、半田クラックが起きている可能性があります。
上記3点をオーナー様にお伝えし、費用概算と修理の可否について説明したところ、イジェクトボタンの件はこの機種の仕様であり故障でないことがわかりました。また、録音については、再生メインに使用するので修理は不要ということとなりました。
しかし、イジェクトボタンの件ですが、以前、修理後に「ボタンを押してもトレイが閉まらない」とクレームを頂いたことがありますが、故障では無かったんですね。当然、その時は結局原因がわからずじまいでしたが、今回は大変良い勉強になりました。
調整に移ります。315Hzの信号が記録されたテープを再生し速度の調整を行います。
ヘッドアジマスの調整を行います。
ノーマルテープでの録再バランス調整を行います。
聴感での録再状況を確認します。
この機種は、テープをセットするとセンサーが検知し自動クローズしますが、
中には相性が悪く受け付けないテープもあります。こういった場合は、トレイを軽く押すか、操作ボタンを押すと閉まりますが、感度調整が原因ではありませんので、カセットハーフの材質や透明度に関係があるのでしょうか?
以上修理完了です。