SONYの3ヘッドデュアルキャプスタンカセットデッキ、TC-KA3ESの修理依頼をいただきました。
かなり長期間不使用だったとのことです。通常、こういったケースでは、ベルト劣化やグリス硬化などのメカの故障が動作不良の原因で、それ以外の故障はほとんど見られないのですが、今回は違いました。
トレイが開かないためテープが閉じ込められています。
カバーを開けます。
トレイのロックを解除し、リッドを取り外します。
メカを取り出してテープを救出しました。
ピンチローラーとアイドラーを取り外します。
硬化したピンチローラーを交換します。
キャプスタンモーターユニットを切り離します。
モーター基板を取り外し、ベルトを交換します。
基板上の電解コンデンサーを交換します。
メカフロント部を分解します。
ベルトが溶けてプーリーに巻き付いていますので、洗剤等で洗浄します。
新しいベルトを仮掛けします。組み付け時にモータープーリーに掛け直します。
ロータリーエンコーダーを分解します。
汚れた接点を清掃し、スライド接点専用グリスを処置します。
テープポジション検出スイッチの接点を磨きます。
メカを元に戻して動作テストを行います。
ミラーカセットを用いてテープパスを点検します。
315Hzの信号が記録されたテープを再生し速度の点検を行います。
ヘッドアジマスの調整を行います。ここまでは順調でした。
最後の最後で新たな問題が発覚しました。録再バランス調整を行おうとしたところ、バイアスキャリブレーションが効きません。
録音してみると、右チャンネルの録音レベルが極小状態です。試しに手持ちのスペアメカと換装してみましたが同様でしたので、回路の故障確定です。
オーナー様に現在の状況をお知らせしたところ、修理にGOサインが出ましたので、修理を進めます。
PCでサイン波を発生させて、それをINPUTに入力し、録音状態にします。回路図を見ながら信号がどこで変化するか追っていきます。
中央の赤色のコネクタは録音ヘッドのものです。ヘッドのギリギリ手前までは正常なことがわかりました。
ダイアグラムを確認すると、録音ヘッドの直前に、HXPRO回路が合流しています。
この辺りがHXPROの回路ですが、壊れそうな部品と言えば、トランジスタかICです。最初にトランジスタを交換しましたが改善は見られませんでした。
続いてICを交換します。μPC1297CAというHXPRO用に開発されたICです。
無事復旧しました。かなり意外な原因でした。
録再バランス調整を行います。
テープポジションの異なる複数のテープで録再状況を確認し、修理完了です。