SONYのTC-K333ESJです。今回の故障は、かなりのレアケースです。
修理のご依頼内容は3点です。「メンテナンス」「左CH出力不良」「たまに音揺れする」ですが、問題は3点目です。「常時発生しない不具合は接触不良が原因」が修理のセオリーですが、それで音揺れするということは普通は考えにくいからです。
動作確認をします。メーターは振れていますが、左CHから音が出ていません。なお、この時点では音揺れはありません。
カバーを開けます。
事前にお聞きしていましたが、フロントパネルとリッドの表示は333ESJですが、中身は555ESJです。オーナー様が中古購入されたときにはすでにこの状態だったということです。
電源部の電解コンデンサーの大きさ、サプライ側のフライホイールの厚み、銅メッキシャシなどが333ESJとの大きな違いです。
リヤパネルを見ると、「TC-K555ESJ」と書いてあります。何か事情があって、前オーナーがフロントパネルとリッドを交換したようです。
出力不良を修理します。ピンジャックボードに近いケーブルを揺すると、出力が回復しますので、この辺りに接触不良が起きていることがわかります。
再生基板を取り外します。
ピンジャックボードを取り外して、再半田します。
これで出力不良は解消されました。次は音揺れです。当店での動作テストでは、最初は正常に再生されていましたが、1時間ほど経過したときに、ビブラートが掛かったような状態になりました。これまで100台以上のESモデルを見てきましたが、初めての状況です。しかし、症状から、物理的な故障ではないように感じますので、やはり接触不良が原因でしょうか?
となると、最も疑わしいのは、キャプスタンモーターを制御している回路です。
半田クラックは見られませんので、構成パーツが故障しかけている、あるいは見えないところに接触不良が起きている可能性があります。パーツボックスにスペアがありましたので丸ごと交換します。
3日以上様子を見ましたが、再発はしませんので、やはり制御基板の故障だったようです。
メカを降ろしてメンテナンスを行います。
分解を進めます。
硬化しているピンチローラーを交換します。
キャプスタンモーターユニットを切り離します。
ここで一点気になることが見つかりました。キャプスタンに摩耗が見られます。指で触ると段差になっていることがわかります。
嫌な予感がしましたので、手持ちのパーツと交換します。ベルトも併せて交換します。
メカフロント部を分解します。
プーリーを脱脂します。
ベルトは硬化変形しています。新しいベルト(右)を仮掛けします。
ロータリーエンコーダを取り外します。
裏側にテープが貼ってあります。以前の修理者によるものですが、なぜそうしたのかという気持ちは分かります。長くなりますので、ここでの説明は省略します。
エンコーダの接点を研磨清掃します。仕上げにスライド接点専用グリスを塗布します。
オートセレクタ用のスイッチ接点を磨きます。
スイッチのカバーが、一か所だけ簡単に外れてしまいます。
カバーが割れていましたので交換します。
メカを本体に戻して動作確認を行います。テープパスは分解前と同じ位置に調整していますが、再生開始時に一瞬音が籠ります。
ミラーカセットを用いてテープパス調整を行います。
315Hzの信号が記録されたテープを再生し、速度の確認を行います。
ヘッドアジマスの調整を行います。
録再バランス調整を行います。
テープポジションの異なる数種類のテープでの録再テストを行い、修理完了です。