本ブログ初登場のLo-D製3ヘッドデュアルキャプスタンカセットデッキ、D-9の修理依頼をいただきました。
オーナー様が若い頃に入手して使い込んだ、かなり愛着のある機種ということですが、その機体は故障して処分してしまったため、最近になって同型機の中古良品を購入されたということです。しかし、数か月使用したあたりで音揺れが発生したため、今回の修理に至りました。
再生ではそれほど気になりませんでしたが、録音してみると、かなりの音揺れが発生します。
ピンチローラーがかなり光っていますので、これが原因でしょうか?
カバーを開けます。キャプスタンベルトは正常です。しかし、「ザッザッザッ・・・」という小さな異音がキャプスタンの辺りから聞こえてきます。オイル切れでしょうか。また、アイドラーがスリップしているような「キーキー」という音も聞こえてきます。
リッドを取り外します。両サイドをピンで固定するという変わった仕様です。
下部にも小さな開閉式リッドがあります。これはハメコミ式ですので簡単に脱着することができます。
メカを取り出すには、電源基板を写真のように開いて、その下にあるコネクタを引き抜く必要があります。
フロントパネルを少し前方に引き抜き、メカを取り出します。
カセットホルダーと化粧パネルを取り外します。
ピンチローラーを交換します。
一旦組み立てて動作確認を行います。しかし、まったく改善が見られません。
キャプスタンのDDモーター基板の電解コンデンサーを交換してみましたが、変わりはありせん。トランジスタやIC故障の可能性もありますので、部品を発注します。
部品が到着するまでの間、不具合の可能性のある個所を点検していきます。リールのトルクとバックテンションを測定します。アイドラーがスリップしているためか、巻き取りトルクが変動しています。
右側リールには、トルクを安定させるためのクラッチが内蔵されていますが、特に問題はありません。
写真左上がアイドラーですが、特殊なタイプのため交換できませんので、企業秘密の滑り止め処置を施します。これでアイドラーのスリップは解消され、巻き取りトルクも安定しましたが、残念ながら音揺れは改善されません。
試しに録音中に右側のピンチローラーアームを指で押し下げると、音揺れが改善されます。右側のキャプスタン周りに問題がありそうです。
(先ほどの写真です。)色々と考えましたが、原因を突き止めることができません。やはりモーター基板の故障でしょうか?それでは部品入手までは手詰まりです。ところが、メカを眺めているときに異変に気がつきました。右側キャプスタンの周りが空洞になっています。
これは左側で正常な状態です。
もう一度メカを降ろして、キャプスタンを引き抜きます。すると、「コロン」という音と共に、
キャプスタンを支えるスリーブが転がり落ちました。メカの奥に引っ込んでいたようです。
早速接着剤で固定し、組み付けます。
音揺れは解消されました。先ほどのスリーブは、左右それぞれ前後に2ケ、メカ内部に取り付けられて、キャプスタンを支えています。前方のスリーブが奥に引っ込んでしまったため、フライホイールの重量で回転バランスが狂い音揺れが発生していたと考えられます。異音も消え去りましたので、これが原因だったようです。
315Hzの信号が記録されたテープを再生し速度の調整を行います。
ヘッドアジマスの調整を行います。
再生バランスに狂いはありません。
録音時のキャリブレーション操作がちょっと変わっています。オーナー様からご教示いただきましたので備忘録として以下記載します。
まずは自動調整する場合です。録音状態で「ATRS」ボタンを押して「START」を押すと、ATRSボタンの上のインジケーターが点滅し、10秒ほどでレベルとバイアスを自動で調整し、最初の位置まで巻き戻しされます。
あとは普通に録音を開始するだけです。
続いて手動調整の場合です。「FIXED」ボタンを押します。
録音状態にして、FIXEDボタンの右となりの「DCCS」ボタンを押すと信号が発信されますので、「TAPE」と「SOURCE」が同レベルになるようツマミを回します。
EQの「TEST」ボタンを押します。するとホワイトノイズが発信されますので、「TAPE」と「SOURCE」が同じ音質になるようツマミを回します。
テープを巻き戻して録音を開始します。
ところが、少し不具合があることがわかりました。
ノーマルポジションからクロムポジションに切り替えると、「FIXED」に替わります。しかし、「ATRS」ボタンを押しても切り替わりません。ただし、この状態で「START」を押すとATRSは作動します。これは仕様かと思い、オーナー様に再度確認したところ、「クロムポジションでもATRSボタンは点灯する。メモリ用電池の問題の可能性あり」ということでした。
メモリ用電池はメイン基板上にあります。電圧を測定すると本来3Vのところ2.4V程度でしたので消耗しています。
容量の大きなCR2045と交換します。交換が容易なよう、ホルダを取り付け、位置は写真の場所に固定しました。
オーナー様のおっしゃるとおり、クロムポジションでもATRSが点灯するようになりました。
これでほぼ作業は完了ですが、少し気になる点があります。カバーを取り付けて、写真の角辺りを押し付けると、「ブッ」というノイズが出力されます。放っておくと何でもないのですが、気になります。
カバーを持って、角をフロントパネルの留めネジと接触させると、同じ雑音が出力されます。
しかし、ただ指で触っても何も起こりません。静電容量の関係でしょうか?
そこで、内部に1本、アースラインを増設します(黒いケーブルです)。底板とメカを繋いでいます。これで雑音は発生しなくなりました。
テープポジションの異なる数種類のテープで録再状況を確認し、修理完了です。