修理をしていて最も厄介なのは、人為的な故障です。通常では考えられないようなことが起きるため、原因を突き止めることは容易ではありません。
ここからが本題です。SONY製3ヘッドデュアルキャプスタンカセットデッキTC-KA3ESの修理依頼をいただきました。
1年ほど前に整備品を入手されたということですが、ワウフラッターが気になるということで今回のご依頼に至りました。最初にメールをいただいたときは、左側のピンチローラー劣化が原因かと思い、事前に写真をお送りいただきましたが、そうではありませんでした。
サイン波を記録したテープを再生すると、確かに音が定期的に波打っています。
カバーを開けました。このときに少し違和感を覚えました。なぜなら、再生ヘッドのケーブルが有り余って束ねてあったからです。これが今回の故障のヒントでした。
以前、この機種でフライホイールのひび割れが発生していることがありましたので、まずそこを観察します。すると、何となくフライホイールの回転にムラがあるように感じました。
メカを降ろしました。
フライホイールにひび割れはありませんでしたが、キャプスタンにガタツキが見られます。しかも左右両方ともです。なぜでしょうか?
化粧パネルを取り外しました。アイドラーの形状から、これはESGのメカと思われます。過去に何かあって換装されたようですが、キャプスタンモーターもその時に交換されたのでしょうか?
キャプスタンモーターユニットの水晶発振器を見ると、間違いなくKA-ESモデル以前のものですので、キャプスタンモーターユニットも交換されています。KA-ESモデルのものは水晶発振器の高さが1/3程度ですのですぐにわかります。
どういうことかというと、KA-ESモデルのみ、キャプスタンの径が太くなっています。テープ速度を制御しているのは、キャプスタンですので、当然、それ以前のモデルよりもキャプスタンの回転数が少なくなっています。そのため、回転数を決定している水晶発振器も異なるものが使用されています。
SONYのESモデルは、ESLからKA-ESモデルまで、メカを丸ごと換装しても正常に動作しますが、キャプスタンにガタツキがあるということは・・・
メカを分解します。
キャプスタンモーターユニットのフレームです。サインペンで「KA7ES」と書かれています。以前修理された方によるものと思われます。
これは手持ちのフレームです。機種名は分かりませんが、KA-ES以前のものです。キャプスタンが貫通する穴径が明らかに先ほどのものと異なることがわかります。
つまり、穴径の大きなKA-ESのフレームに、径の細いKA-ES以前のキャプスタンを使用したため、回転が偏心して音揺れの原因となったということです。
元通り組み立てて動作確認を行います。
ピンチローラー脱着後のテープパス点検は必須です。
ヘッドアジマスも大幅に狂っていましたので調整します。
以上修理完了です。長いことやっていると色々なことがあるものです。