故障したカセットデッキは、傷んだベルトを交換するだけでも動作するようになることもありますが、仕組みや原理を知らないと、上手く動作しないことが多々あります。
本題に入ります。今回は、ヤマハ製3ヘッドデュアルキャプスタンカセットデッキ、K-1xです。
最近、オークションで入手されたということですが、「再生音が歪む」「高音が波打つ」というった状態ということでしたが、詳しくお聞きすると、特定のテープで症状が顕著に現れるということです。また、他の機器で録音したテープの音が籠る(特に左CH)ということです。
特定のテープで症状が現れる原因としては、テープの厚みや表面の摩擦のほか、カセットハーフに内蔵されているパッドの形状や構造の違いが影響していると考えられますが、いずれにしても、機器に何らかの不具合が生じていることは間違いありません。
「さあ、点検」というところで、操作ボタンが欠落していることに気がつきました。辺りを見ても、段ボール内を探しても見つかりません。
また、操作パネルの蓋が開きません。オーナー様にこれらのことを確認するためにメールを送付しました。しかし、発送前に問題は無かったということです。
原因を探ろうと、フロントパネルを取り外したときに、突然扉が開いて、中から紛失したと思ったボタンが出てきました。輸送中に外れたボタンが、閉じていたパネル内に入り込むことがあるのでしょうか?一体何があったのかさっぱりわかりません。
気を取り直して、ボタンは接着修理しましたが、新たな問題が発覚しました。内部の配線に触れるとディスプレイが消灯することがあります。
再度フロントパネルを取り外し、ディスプレイ基板の点検を行います。
FL管の端子部のところどころに半田クラックが見られますので、すべて再半田します。
不具合は解消されました。
音の籠りや左CHの問題の確認を行います。最初はまったく正常という状況でしたが、
マクセルのURに替えたとたん、音が波打ちます。特に左CHが顕著です。
録音中に左側のリールにブレーキを掛けると音質がクリアになります。テープ走行に問題があるようです。
巻き取りトルクとバックテンションは問題ありません。
ヘッド周りを目視点検します。何となく左側のピンチローラーの状態(位置)に違和感を覚えます。これまで見てきた中でもかなり奥側にセットされています。
ピンチローラーの調整を行うと、左右バランスの不具合は解消されました。しかし、録音開始直後は問題無いのですが、十秒ほど経過すると、以前録音された音とミックスされた音が出力されてしまいます。消去不良です。
動作を観察します。すると、写真中央になりますが、消去ヘッドの上を通過しているテープが時間の経過に従い上に浮き上がり、ヘッドと離れてしまうことがわかりました。
メカを降ろします。
モータープレートのネジが緩んでいます。締め忘れでしょうか(この処置の理由は後ほど判明しました)?
プレートを取り外しました。テイクアップ側のフライホイールの状態を見て納得しました。ゴムベルトが当たる面に何かが付着しています。おそらく、加水分解で一度溶けたベルトが時間の経過により固まったものです。この機体を修理?された方はデュアルキャプスタンの原理を知らなかったようです。
デュアルキャプスタンは、左右キャプスタンで送られるテープ速度にわずかな差があります。左側を右側より遅くすることにより、テープが引っ張られる形となり、ヘッドとの密着を高め、音質が向上するというものです。
しかし、フライホイールに付着した異物により外周が大きくなり、結果として、右側のキャプスタンの回転が遅くなったために左右キャプスタン間のテープが次第に撓み、今回のような状態になったということです。この現象は、キャプスタンが摩耗したときにも起こることがあります。
綺麗に清掃します。ベルトも少しきつめでしたので交換します。
本体に組み込みます。走行は正常になりましたが、今度は、キャプスタンの回転に合わせ、「シャリシャリ・・・・」という異音が発生します。
再度分解します。テイクアップ側のスプリングプレートが裏表になっていました。異音の発生はこれが原因です。先ほどのビスを緩めてあったのは、それを解消するためだったようです。私はDIYは否定しませんが、左右や裏表のあるパーツは、必ず写真を撮るなどの記録をしてから分解しなければなりません。
テープの撓みや異音は解消されました。続いてメカのメンテナンスに移ります。
写真では分かりにくいかもしれませんが、リールモーターのシャフトに取り付けられているスリーブにひび割れが生じていますので、接着処置を行います。
アイドラーゴムを交換します。
カムモーターを取り外します。
リーフスイッチの接点を磨きます。
カムモーター、リールモーターを無負荷状態で高速回転させ、内部接点の接触改善を図ります。
新しいバックテンションベルトに交換して組み立てます。
本体に組み込んで動作確認を行います。
ミラーカセットを用いてテープパスの調整を行います。
315Hzの信号が記録されたテープを再生し、速度を調整します。調整幅が大きいのは、きつめのベルトを交換した影響です。
ヘッドアジマスの調整を行います。
録再バランス調整を行います。
テープポジションの異なる数種類のテープで録再状況を耳で確認し、修理完了です。このところDIY修理の機器に振り回されています。