これまで何度か当店をご利用になった方から、新たなご依頼をいただきました。
SONY製2ヘッドシングルキャプスタンカセットデッキ、TC-K5です。右チャンネルの出力不良ということです。
しかし、当店に到着した時点では、なぜかテープ走行すらできない状態でした。
何があったのか、カバーを開けて点検します。
キャプスタンベルトが脱線していました。ベルトが伸び気味なため、輸送中の振動の影響を受けたようです。元に戻すとテープ走行可能になりましたが、再発は必至ですのでベルト交換が必要です。
とりあえずテープ走行は可能になりましたが、お話にあった通り、右CHに出力不良が見られます。無音ではありませんが、かなりレベルが小さく、また、音が歪んでいます。
カバーを開けました。この時代のデッキの録音と再生の切り替えは、指差ししているようなスイッチで切り替える仕様のものがほとんどで、その接触不良が原因で再生や録音に不具合が発生することがあります。
その場合は、録音ボタンと停止ボタンを交互にガチャガチャと切り替えると状況が改善されますが、今回は、一向にその気配は見られません。そこで、VOL類の接触やヘッドの点検を行いましたが、問題はありませんでした。ということは、回路の故障ということになります。
回路の修理に当たっては、回路図が入手できるかということが重要ですが、運よく入手できましたので修理できる可能性がかなりアップしました。
回路上のどの位置で故障しているのかを特定するため、サイン波が記録されているテープを再生し、オシロスコープでその信号を追っていくと、LINE-AMP上で不具合が起きていることがわかりました。
サービスマニュアルを見ながらLINE-AMPの回路の点検を進めた結果、トランジスタの端子部で電圧低下していることが判明しました。
トランジスタをひとつずつ取り外して点検を行います。トランジスタチェッカーでは、明らかな故障は検知されませんでしたが、
Q207(2SC1345)の端子が酸化して黒くなっていることが気になりましたので、試しに交換を行いました。
ビンゴでした。おそらくですが、端子の酸化がトランジスタ内部にまで進行し、性能が低下していたようです。
ベルトの交換は、フライホイールのバックプレートを外すことにより、メカを脱着せずに行うことができます。キャプスタンベルトとリールベルトの2本を交換します。
調整に移ります。315Hzの信号が記録されたテープを再生し、速度を調整します。
ヘッドアジマスの調整を行います。
ここで問題が発生しました。突然走行が停止しました。何度か試しましたが、不定期に停止します。オートシャットオフ関連の故障のようです。
このメカは初めて扱いますので、システムを理解するのに時間が掛かりましたが、指差ししている箇所が、リールの回転を検知してオートシャットオフを作動するためのレバーです。動きを見ているとレバーがグラグラと動いて安定しません。
他の方の修理記事にも同様の不具合が紹介されていましたが、検知レバーの支点を固定するプラスチック製の留め具が外れかかっています。おそらく劣化して割れてしまったものと思われます。SONYの製品は全般的には優れているのですが、肝心なところに欠点があるため、いわゆる「ソニータイマー」と揶揄されることがあります。
当初は回路のみの修理と考えていましたが、結局はメカを降ろして作業を行うことになりました。
メカを取り出すためには、化粧パネルが引っ掛かるため、先に取り外さなければなりません。
配線が基板直付けですので、苦しい体制での作業となります。
背面の部品を分解し、オートシャットオフの検知レバーを取り外します。
これが割れた留め具です。ハメコミ式になっています。部品は入手できませんので、外れないように弾性のある接着材で固定します。
接着が乾くのを待って動作確認を行います。無事解消されました。
今回のオーナー様のご依頼は「再生だけでOK」ということでしたが、録再バランス調整及び録音テストを行い、
回路構成部品の劣化により、ややノイズが乗りますが、今回はこれで修理完了です。