同じお客様から2台修理依頼をいただきました。タイトルにあるとおり、A&Dの3ヘッドカセットデッキ9100EVと7100EVです。オーナー様は、元々9100EVを所有していたものの、数年前から不調になりそのまま放置状態になっていたということです。もう一台の7100EVは中古動作品として昨年購入したものですが、一度は返品を考えたというぐらい音質が悪いということです。
当初は9100EVを修理し、その後に7100EVをということでしたが、送料の関係もあり一度にお送りいただくことになりました。
まずは9100EVから取り掛かります。電源をONにするとモーターの音が小さく響き、勝手にトレイが開きます。
フラッグシップモデルということで、底板と内部仕切り板は銅メッキシャシです。メカを取り出して整備を進めます。
カセットホルダーを分解します。両サイドに備えられているスプリングの変形はありません。
右側のピンチローラーアームが完全に固着しています。半田ごてで加熱しながら慎重にパーツを引き抜きます。グリスが乾いて白くなっていました。
ヘッド周りを分解します。古いグリスは除去しシリコングリスを塗布します。
ピンチローラーは表面を軽く研磨し、専用クリーナーで清掃します。
左右リールを分解しアイドラーゴムの当たり面をアルコール清掃します。ゴムは新品代替品に交換します。
フロント部は完了しました。
メカ背面に移ります。キャプスタンのフライホイールの状態は良好です。
カムモーターベルトを新品交換します。
オートテープセレクター検出スイッチの接点を清掃します。
元通りに組み立ててこれでメカの整備は完了です。
本体に組み付けてまずは簡易動作テストを行います。良好です。
ミラーカセットを使用して、テープが他の場所と干渉していないか目視点検します。
テープ速度を点検、問題ありません。
再生ヘッドのアジマスを調整します。
サイン波を録音し、再生モニターで波形が一致するように録音ヘッドアジマス、左右音量バランスを調整します。
ケーブルを束ねて完成です。軽快な動作、良好な音質です。
続いて7100EVですが、この機体は音質が悪いということで、まずは修理可能かどうか点検を行います。メカの動きは緩慢ですが、かろうじてテープが走行しますのでヘッドアジマスの点検を行います。
予想以上に狂いが見られます。これは人為的なものと思われます。音が籠っている以外は大きな問題は無いようですので、修理可能と判断し、その旨オーナー様にご連絡し、GOサインをいただきました。
電源トランスも9100EVと異なるのが分ると思います。
メカを取り出してカセットホルダーを分解します。
経年により変形しているスプリングは脱着して加熱整形します。
ヘッド周りを分解し古いグリスを除去後、再グリスを行います。
ピンチローラーのメンテナンスを行い、
リール周りも分解し、清掃及びアイドラーゴム交換を行います。
メカ背面に移ります。
キャプスタンのフライホイールです。ベルト当たり面の清掃を行います。
カムベルト新品交換、
オートテープセレクター検出スイッチの接点を清掃します。
本体に組み込み、 動作テスト、テープパスとテープ速度の点検を行います。
一番の問題はここです。左写真は315Hzのテープを再生した波形(調整前)です。ここで一度調整を行います。次に12.5kHzのテープで微調整を行います(右写真は調整後)。
続いて録音ヘッドアジマス、左右音量レベル調整を行います。さあ、音質はどうなったでしょうか?
CDを録音モニター再生します。完全に蘇りました。素晴らしい音質です。
ケーブルを束ねて完成です。カセットデッキは調整が命ですね。ただし、専用のテープと計測器が必要ですので、やみくもに触れることはお控えください。