今回は非常に珍しい故障の修理を行いました。
SONYのTC-KA7ESです。現在も非常に高値で取り引きされている人気のデッキです。不具合の状況ですが、再生を行うと、数十秒後に速度が低下するというものです。
このデッキは元々不動品で、オーナー様はDIYでベルトの交換などを行い、動作はするようになったものの、この不具合の発生により修理を断念され、当店に依頼がありました。速度が異常に速いというのは経験がありますが、今回のようなケースは初めてです。
カバーを開けて動作状態を目視で確認します。テープ速度は、メカ後部のキャプスタンモーターで制御されています。
再生を行います。最初は快調でしたが、30秒ほど経過すると、突然速度が2~3割程度低下します。
まずは原因の切り分けを行います。手持ちのスペアメカを接続し、動作確認を行います。ケーブルが短いため写真のような状態になっていますが、正常に動作しました。ということは、キャプスタンモーターに不具合が起きていることは間違いありません。
早速メカを取り出します。この機種は、底板の脱着を伴いますので面倒です。
まずはESシリーズのウィークポイントの定番、電解コンデンサーを点検します。端子が綺麗ですので、液漏れはしていませんが、容量抜けということも考えられますので、交換を試みます。
交換しました。どうでしょうか?
まったく改善されません。
基板を交換してみましたが、やはり同様です。ちなみに、機種によって水晶発振器の規格が異なり、回転数が変化しますので注意が必要です。
もう残りはここしかありません。FGサーボのコイルです。フライホイールに取り付けられた磁石の回転で電気を発生し、その周波数により回転数を検知する仕組みです。しかし、「最初は正常だが数十秒後に不調になる」という症状から、ここに不具合が起きていることは考えにくいのですが・・・仮に接触不良が起きた場合は高速回転になりますし、また、毎回同じように不具合が起きることはあり得ません。
しかし、
治りました。
今まで取り扱った故障の原因は、ほぼすべてといっていいほど理論的に説明ができましたが、今回に限っては、なぜこれが原因なのかは説明できません。しかし治ったのは事実です。
故障が解消されましたので、ここからは、通常のメンテナンスに移ります。トレイを切り離し、
ピンチローラーとアイドラーを取り外し、キャプスタンモーターを分離します。
電解コンデンサーは先ほど交換しましたので、
シャフト部のグリスアップとベルト交換を行います。
メカフロント部に移ります。
モーターブロックを切り離します。交換したてのベルトは再利用しますが、
プーリーととともにアルコールで脱脂します。
ロータリーエンコーダーを取り外し分解します。
汚れた接点を研磨清掃し、専用グリスを塗布します。
テープ検出スイッチのカバーを外し、接点を磨きます。
元通りに組み付けていきます。
ピンチローラーの交換を行います。表面は劣化が進行しています。左側についてはコアの部分に充填剤が使用された問題が起きやすいタイプです。
交換完了です。
オーナー様からのミッションが二つあります。一つ目はオーナー様が整備中に中から出てきたというステンレス製ボールです。
このボールは、ヘッドブロックの上下に4ケ使用されています。挟まっているだけなので、脱落する可能性があります。
ヘッドを外して確認しましたがすべて正常です。一体どこから出てきたのでしょうか?製造中に紛れ込んだのでしょうか?
メカの組み立てが終わりましたので試運転です。ここでもう一つのミッションを思い出しました。テープを再生すると、周期的に「コト、コト」と小さな音が聞こえます。よくよく観察すると、右側リールの回転周期と同期しています。
リールを交換します。これで異音は解消されました。経年によりわずかな変形が起きていたものと思われます。
本体にセットしました。点検調整に移ります。
テープが一直線に走行しているかミラーカセットを用いて目視点検します。
315Hzのテープを再生しています。規格値内に収まっています。
ヘッドアジマスを調整します。
バイアス調整を行い、入手力レベルを調整します。
完成しました。