(今回の修理は、不良ヘッドの交換ができなかったため不完全な結果となっていますが、備忘録として記事をアップします。)
以前からお取引いただいている方からの新たなご依頼です。
ビクターの2ヘッドシングルキャプスタンカセットデッキ、KD-A7です。最近入手されたということですが、不動とのことです。
イジェクトボタンを押すと、ロケットオープンになっていて「ガシャン」と凄い勢いで開きました。
テープをセットして操作ボタンを押すと、ソレノイドの「ガチャ」という音は鳴りますが、まったく動きません。
カバーを開けます。上から覗くと、キャプスタンベルトが脱線していることがわかりました。ベルトが伸びたのでしょうか?
メカの隙間からリールモーターのシャフト部をつつくと、モーターが回転し始めました。
早送り巻き戻しではリールが回るようになりましたが、かなり弱々しく、すぐに停止してしまいます。
メカを取り出しました。ヘッドのケーブルを基板から切り離すのは厄介なため、切り離さずに写真のような状況での作業になります。
カセットホルダーを写真のように開きます。アイドラーの周辺にあるリールモーターの固定ビス3ケを緩めます。
モーターを取り出します。他社製デッキで通常使用されているものより小型のモーターですが、このサイズの代替品はありませんし、また、少し大き目のサイズのものは、スペース的に取り付けできませんので、モーター内部接点のリフレッシュを行うことにします。
モーターに9Vの電圧を印加し、ひと晩放置します。
その間に硬化したアイドラーゴムの交換を行います。
これは。カセットホルダーが開くときの衝撃を吸収するダンパーです。ロケットオープンはこの部分の問題ですので、分解して清掃とブレーキゴムの表面研磨、ゴムを押さえるバネの強化を行います。
メカ背面のプレートを取り外し、キャプスタンベルトの交換を行います。
メカを仮接続して動作確認を行います。リールモーター不良の場合は、右側リールの回転が超低速になるテープ終盤に停止するという症状が起きやすいので、そこを重点的に走行テストします。
ヘッドアジマスの調整を行います。
315Hzの信号が記録されたテープを再生し速度の調整を行います。
録再バランス調整を行います。
ここからが問題です。ようやく完了に近づいたところでしたが、右CHの音が籠っていることに気がつきました。
周波数特性を点検します。315Hz、1000Hz、10000Hz、12500Hzの信号が記録されたテープを再生します。左写真は左CHです。高域は減衰しているものの、聴感上はそれほど問題の無いレベルです。問題は右写真の右CHの状況です。10000Hz、12500Hzの出力がほとんどありません。もちろんヘッドの汚れということはありません。
この状況は、回路の故障かヘッドの性能低下のいずれかと思われますので、不具合個所の特定を行わなければなりません。
ということで、結局、ヘッドのコネクタを切り離さなければならなくなりました。「電源・コントロール基板」を固定している10ケほどのビスを緩めると、基板を後部にスライドすることができますので、写真のように前方を少し浮かせ、下部のアンプ基板からヘッドのコネクタを引き抜きます。
ヘッドのコネクタです。ケーブルが抜けないように端子にロックが掛かっていますので、細いドライバでロックを解除してケーブルを引き抜き、左右の配線を入れ替えてみます。すると、音の籠りが左右入れ替わりました。ということは、回路には問題はなく、ヘッドの性能低下ということになります。
これはヘッドの交換しかありませんが、事前にオーナー様が同型機のジャンクをお持ちとお聞きしていましたので、メカ部分をお送りいただきヘッドを換装することになりました。
2日ほどして到着しました。
同型機のメカと聞いていましたが、なぜかヘッドとピンチローラーの間に、何かのセンサーが取り付けられています。ただし、ヘッド自体は同じもののようです。
幸いにもメカを降ろさずに作業が可能でした。元のヘッドを取り外し、
お送りいただいたヘッドと交換し、アジマス調整を行います。
さあどうでしょうか?・・・結論から申し上げますと、状況にそれほどの変化はありませんでした。同じ時期に製造されたものは同じ不具合が発生する可能性が高いことは既知の事実ですが、これは仕方ありません。
オーナー様に以上報告し、今回は、元のヘッドに戻し、ここで修理完了となりました。