これまでA&D(AKAI)のデッキの修理は、100台以上取り扱ってきましたが、今回はその中でも珍しいケースです。
機種はA&DのGX-Z9100EVです。普通に再生しているときに突然電源が切れてしまったということです。
電源ONの状態です。表示パネル不点灯の故障はこれまで何度か修理してきましたが、この機体はテープ走行も不可です。しかし、電源自体が故障することは稀ですので、ほかに原因があると思われます。
カバーを開けて点検を進めます。
目に飛び込んできたのはここです。1Aのヒューズが2本とも焼き切れています。しかし、このヒューズを交換して修理完了というわけにはいきません。なぜなら、ヒューズが切れるのには訳があり、その対策を行わなければすぐに同様の故障が再発するからです。
ヒューズが切れる原因としては、一般的に次のようなものが挙げられます。
1 修理作業中の不注意によるショート
2 メカトラブルによりモーターに高負荷が加わった
3 基板パーツの劣化等
今回はもちろん1は除外です。
メカには特に問題はありません。
続いて3ですが、
本体をひっくり返してメイン基板を目視点検します。
明らかに異状な点が発見されました。基板の色が焼けたように茶色くなっている箇所が数か所あります。さらによく観察すると、それはすべて背の高いトランジスタの周辺に見られます。
写真中央の黒い四角のパーツがトランジスタです。周りのパーツと比較しても背が高いことがわかるかと思います。
基板の裏側の状態を拡大鏡を使用して点検すると、トランジスタの半田付け箇所にクラックが発生してることがわかりました。ほかの箇所も同様です。そこで、基板上の同様のパーツすべてに再半田を行いました。
新しいヒューズをセットして、電源を投入します。緊張の一瞬です。
無事復活しました。
今回の故障の原因ですが、背の高いパーツに半田クラックが発生することはそう珍しいことではありません。今回不具合が見られたトランジスタはいずれも発熱の多いパーツです。そして熱による膨張収縮が長年かけて取り付け部にクラックを生じさせたと考えられます。背の高いパーツになぜ多発するかというと、振動の影響を受けやすいということもありますが、そもそも発熱するパーツは放熱のため背が高いということも要因として挙げられます。
クラックが発生すると接触不良により抵抗が増大してさらに発熱します。それで基板が茶色く焼けてしまいます。さらに、接触不良が一時的に回復する際に突入電流が流れ、それがヒューズ切れを引き起こします。
当初はこの後にヘッドアジマス調整を行い修理完了という予定でしたが、
メカを覗き込むと、ピンチローラーが異様に光っています。最初は専用クリーナーで清掃しましたが、まったく改善しているようには見えません。指で触ってみるとかなり硬化が進行していることが分かりました。早速オーナー様にご連絡すると「交換OK」とのことでしたので作業に移ります。
ピンチローラーの交換は、メカを降ろさなくても、少し前に引き出すことで可能になります。カセットホルダーを外し・・・・
ここで異状に気が付きました。
ホルダーの右側のガイドピンが破損しています。右写真は正常な状態です。
この作業は久しぶりです。ガイドピンがあった箇所に2.5mmドリルで穴を開けて、頭を切断した3mmのビスをねじ込みます。
これでまったく問題なく動作できます。
新品代替品のピンチローラーと交換しました。
ここから調整ということで、ミラーカセットをセットしましたが、再度異状が見られます。
左側のピンチローラーが上がり切っていません。メカの動作状況を目視点検すると、モードベルトがスリップしていました。
結局メカを取り出すことになりました。ベルトを交換し、ピンチローラーは正規の位置まで上がるようにはなりましたが、
正面のパネルを外してみると、シリコングリスが過剰に塗られています。また、左側リールのブレーキパッドが脱落しています。この機体は以前、他店で点検してもらったそうですが、そのときはあまり改善が見られなかったということです。
やはりメカのメンテナンスを行う必要があるようです。
メカを分解します。古いグリスはそのまま残っていましたので拭き取ります。
大量に塗られたシリコングリスもふき取りました。グリスは微量塗布するだけで十分効果があります。
元通りに組み立てます。
アイドラーです。ゴムの表面に何か処理されています。滑り止めでしょうか?外してみるとかなり小さいサイズのもの(左側)が取り付けられていました。
アイドラーゴムの当たり面をアルコール清掃し、ブレーキパッドは不織布をカットして貼り付けます。
メカの背面です。基板を外します。キャプスタンベルトはSONYのES用のものが使用されていました。もちろん新品に交換します。
テープセレクターの検出スイッチの接点を清掃し、元通りに組み立てます。
本体にメカを組み込んで調整に移ります。ミラーカセットを用いて、テープガイドとテープが干渉していないかチェックします。
テープ速度です。315Hzのテープを再生しています。規定値内に収まっています。
ヘッドアジマス調整です。12.5KHzのテストテープを再生し再生ヘッドのアジマスを点検します。かなりの狂いが見られます。
ヘッド右側の調整ネジを回して正規の位置に合わせます。
続いて録音ヘッドのアジマス調整です。入力された信号とそれを録音した再生モニターとの波形が一致するように調整します。写真はありませんが、バイアスキャリブレーションのメーター表示と実際の適正バイアス値が一致するよう調整を行います。
さあ、実際の音質はどうでしょうか?いつも聴いているCDを録音しましたが、原音と遜色の無い良好な音質です。最後にケーブルを束ね、
完成しました。動作はもちろんのこと音質も最高です。この音を聴いて、低グレードテープを使用していると気づく方はまずいないでしょうね。