少し前に当店でTD-V721を修理された方からのご依頼です。
SONYの3ヘッドデュアルキャプスタンカセットデッキ、TC-K555ESRです。20年ほど前に中古購入された機器ということです。
不具合の状況としては「キャリブレーションメーターが振り切れて調整不可」「再生は正常。生テープへの録音は出来るが上書き録音は以前録音した音が残る」ということです。
それ以外にもトレイがロケットオープンになっています。
早速点検を進めます。再生すると音が波打ちますので、テープ走行に問題がありそうです。
録音です。キャリブレーション時のメータが振り切れる現象は確認できませんでしたが、LCHの録音レベルがかなり小さい状況です。
ミラーカセットを用いてテープの走行状況を目視点検します。すると、再生開始直後に、右側ピンチローラーのところで。テープが蛇行していることがわかりました。
ピンチローラーを交換してみます。しかし、状況に変化は見られませんでした。
カセットホルダーを取り外した状態で点検を行います。トルクメーターをセットし、巻き取り側のトルクとサプライ側のバックテンションを点検しましたが問題は見られません。
試しにサプライ側のリールに楊枝でブレーキを掛けてみました。すると、蛇行していたテープが正常に走行するようになりました。
原因が分りました。最初の点検時にキャプスタンが汚れているのには気が付いていましたが、左側のキャプスタンに触れてみると、付着した汚れが層状になっていました(写真は清掃後です)。そのため、左右キャプスタン間のテンションが弱くなり、テープ走行やヘッドのタッチに異状が生じていたようです。清掃後はまったく異状は発生しなくなりました。
カセットハウジング内の化粧プレートを取り外し、裏面のプリズムに積もった埃を清掃します。あまり汚れるとセンサーへの光が遮られて、勝手にオートストップが働いてしまいます。
左右リールの分解を行いますが、先端の銀色のパーツは簡単には引き抜くことができません。
そこで、厚手のゴムシートをペンチに挟んで、リール先端を引き抜きます。
左右リールにグリスアップします。
キャプスタンモーター基板とフライホイールを分解します。
このレバーの支点部が固着しやすいので注油します。
キャプスタンのシャフトにグリスを塗布し、新しいベルトに交換します。
トレイのロケットオープンの修理です。
ダンパーのOリングを交換します。
ロケットオープンは改善されました。
本体に組み込んで動作テストを行います。
ミラーカセットを用いてテープの走行状況を目視で点検します。
315Hzの信号が記録されたテープを再生し速度の点検を行います。
再生ヘッドのアジマス調整を行います。かなり大幅な狂いです。
やはり録音が不調です。原因は、ヘッドにこびり付いた汚れでした。クリーニング液では除去できなかったようでしたので、研磨剤を用いて磨きました。
録音ヘッドのアジマス調整を行います。
バランス調整を行います。
テープポジションの異なる数種類のテープで録音再生状況を確認し、完成です。