SONYのESシリーズのカセットデッキは、1989年に発売されたESGモデルから、最終モデルのKAモデルまで、心臓部のメカはほぼ同一です。もちろん、細部は都度見直しされていますが、基本的な設計は変わっていません(555、333、222などグレードが変わってもメカは同一です)。
最近これらESシリーズの修理をしていて目につくのが、左側ピンチローラーの浮きです。「浮き」という表現を使用しましたが、正確には、フロント部にせり出してくるというものです。ただし、すべての機体で発生するということではありませんので、製造ロットによるものと思われます。
これはキャプスタンのモーターブロックです。棒状のものが4本前方に突き出しています。内側の2本はキャプスタンで、回転してテープを走行させるためのものです。外側の2本は、ピンチローラーを固定するためのものです。
この外側2本のうち、左側のバーが次第に抜け出してしまうという不具合が多発しています。引っ張ると簡単に抜けてしまいます。なぜ、次第に抜け出してくるのかというと、ここは、圧入という単に差し込むだけという工法により組み立てられています。したがって、金属同士の摩擦力で固定されていますので、部品の製造の精度については非常にシビアなものが求められます。
解説用の写真を撮影しました。左側のピンチローラーは、テープがヘッドと一直線になるように調整可能となっていて、そのため、取り付け部にはスプリングが組み込まれています。ところが、このスプリングの力によって、圧入部が次第に抜け出してくるというものです。もちろん、製造時に高精度で組まれていて摩擦力がスプリングの力に勝っていればこんなことは起きません。
それでは、上記のようにピンチローラーが抜け出すとどうなるかというと、「テープが脱線してクシャクシャになる」「音質の極端な低下」という症状が発生します。前者はすぐに異状に気づきますが、20~30年で0.5mm程度の抜け出しですから後者の場合はなかなか気づかないかもしれません。0.5mmというと、非常に僅かと思うかもしれませんが、ヘッド周りは非常に敏感ですので、テープの録音再生には致命的といっても過言ではないと思います。
修理の方法は、圧入部に微かな傷を付け摩擦力を高めたうえでブロックにバーを所定の位置まで打ち込むこととしています。
いずれにしても、非常に発生確率の高い不具合ですので、ESG以降のカセットデッキをお使いの方は当店までご相談ください。