少し前にSONYのカセットデッキを当店で修理された方から、新たなご依頼をいただきました。
機種名は、VictorのDD-9です。
長年愛用していた機器とのことですが、再生不可となってしまい、オークションで基本動作確認済みという同型の機器を購入されたものの、左チャンネルの出力が無い故障機だったため、今回のご依頼にいたりました。
今回は、2台ともお送りいただき、最近入手された機器は部品取り用とし、基本的には元々お持ちの機器を修理するということで進めます。
順序は逆ですが、まずは左CH出力不良の機器を点検します。
写真のようにメーターは振れていますが、左CH無音状態という故障機です。最初は回路の故障かと思いましたが、点検の結果、原因はOUTPUTVOLの故障でしたので、VOLを直結にしたところ左右とも正常に出力されるようになりました。音質もメカの動作も良好です。
ところが、動作点検中に突然再生が停止しました。操作ボタンを押しましたが、まったく無反応になってしまいました。
英語版のサービスマニュアルで回路図を確認すると、国内仕様とはかなり回路が異なることがわかりました。とりあえず、電圧を点検したところ、コントロールICに供給されている5Vが出力されていません。おそらく写真の電源用TRの故障です。
こういった、修理中に新たな故障が発生することは決して珍しくありません。長期間使用しない間に劣化が進行し、その状態で負荷が加わったときに耐えきれず故障するというものです。
部品在庫はありませんので、この機体の修理は後回しにします。
メイン機器の修理に移ります。カセットをセットすると、通常は右側のディスプレイに「Quartz Lock」と表示されるのですが、点灯しません。DDキャプスタンモーターが故障し再生できないようです。
早送りや巻き戻しは動作しますが、頼りなく回転します。
カバーを開けます。
底板を取り外します。フライホイールは回りませんが、時々回転します。こういった症状は電解コンデンサーの故障が原因と思われます。
コネクタ類を切り離し、メカを取り出します。
メカ背面の基板を取り外します。
ソレノイドユニットも取り外すとキャプスタンモーターを脱着することができます。
電解コンデンサーとフィルムコンデンサー計6ケ交換します。
メカに組み込む前に電源を接続し、モーターが回転することを確認します。
カセットホルダーを前方に倒し、硬化しているアイドラーゴムを交換します。
本体に組み込みました。「Quartz Lock」が点灯し、テープ走行できました。・・・が、音が出ません。再生回路の故障でしょうか?国内仕様の回路図はありませんのでピンチです。ところが点検を進めると意外な事実が判明しました。
ピンぼけですが、ヘッドを下から見たところです。再生ヘッドの配線の半田箇所がすべて半田ブリッジになっています。つまり、左右・プラスマイナスの配線すべてが導通状態です。以前に何か特別な事情があったのは間違いありません。
半田を吸い取りました。
ようやく音が出るようになりましたが、低音のノイズが発生しています。再生時は気になりませんが、無音時は少し気になります。また、ヘッドホンをジャックに差し込むと、発振し、「ブー」という再生音が出力されます。
こういったノイズ関連の修理は、手間暇がかかりますし、そもそも国内仕様の回路図がありませんのでお手上げ状態です。そこで、オーナー様に
「本体はスペア機を使用し、外装は比較的綺麗なメイン機と換装、OUTPUTVOLと電源部のトランジスタもメイン機から移植」というご提案をし、作業を継続することとなりました。
まずは電源部のトランジスタです。故障したのは2SC1162ですが、メイン機のものは、なぜか2SD882でした。
ディスプレイ基板など支障となるパーツを取り外し、スライドVOL基板を取り出します。
メイン機から移植します。
動作確認を行います。
COMPUTER CAL(オートチューニング)も動作します。音質も良好です。
315Hzの信号が記録されたテープを再生し速度の点検を行います。0.4%ほどの狂いですが、この程度は聴感ではわかりません。
ヘッドアジマスの調整を行います。
キャリブレーション後に録再バランス調整を行い、修理完了です。